避妊用ピル

不妊症の最新治療の紹介・避妊用ピルやアフターピルの購入方法

投稿日:2017年1月26日 更新日:

不妊症とは?不妊症治療をデータで見た

一般的に、2年以上夫婦生活を営んでいても妊娠に恵まれない場合を『不妊症』と定義しています。避妊をせず、夫婦が性生活を続けると、1年後に80%、2年後に90%のカップルが妊娠をします。しかし、10%のカップルは、その後もなかなか妊娠に至りません。この約10%の方々が、不妊症治療の対象となります。原因はさまざまで、女性側にある場合と男性側にある場合とがあります。原因がはっきりしないこともありますが、最も影響が大きいのは女性の年齢で、年齢を重ねれば重ねるほど妊娠しにくくなります。女性の妊孕性(妊娠のしやすさ)は、30代前半から少しずつ低下しはじめます。一方、男性の妊孕性は女性とは対照的で加齢に伴う低下はそれほど顕著ではありません。前述のとおり、女性の場合、年齢と妊娠率には深い関係があります。20歳よりも30歳、30歳よりも40歳……というように年齢が高くなればなるほど、妊娠する可能性は低くなっていきます。女性が高年齢の場合は、できるだけ早期に治療を開始した方が妊娠するチャンスは多くなるので、必ずしも不妊症の定義のとおり、夫婦生活をして「2年」経ってから不妊治療を始める必要はありません。近年、女性の社会進出などを背景として、女性の晩婚化、高齢出産が急速に増加しており、前述の定義どおりには治療が進んでいないというのが現状です。

何歳まで妊娠は可能?
「生理があれば、妊娠できると思っていた」という言葉をよく聞きます。実際、これは海外で第3者の卵子提供を受けて妊娠した国会議員の野田聖子さんも言っていたことだそうです。「生理さえあれば、妊娠は可能」―これが、一般に蔓延している妊娠に関する大きな誤解の1つです。ところが、実はこの一般的感覚と医療の現実は大きく乖離しています。一般認識と医療の現実がいかにズレているかについて公開されている調査データやメディカルパーク湘南の治療成績データなどから不妊治療に関する数字を見ていきましょう。 まず最初に、女性向け医療情報を提供しているサイト「ジネコ」(http://www.jineko.net/)が2012年に不妊治療経験者を対象に行ったアンケート調査(途中経過報告)の結果です。調査では「不妊治療を始める前、女性は何歳まで自然に妊娠できると思っていましたか?」について聞いたところ、回答者の約65%が「40代以上でも自然妊娠ができる」と思っていました。。今は『40歳を超えてからの初産』という有名人女性や周囲の友人も多く、40代以上での初産は珍しくない、と思っている方が多いのかもしれません。次に「不妊治療を始める前、不妊治療をすれば何歳まで妊娠可能と思っていましたか?」という問いでは、80%以上が「治療をすれば40代以上でも妊娠ができると思っていた」
と答えています。治療を始める前は、「50歳でも可能」だと思っている人が多いことも分かりました。「不妊治療を始めた年齢」を聞いた質問では、30代が70%を占めた一方で40代も10%という結果でした。調査情報にもあるように、晩婚化が進み、40歳を過ぎて不妊治療を始める女性が増えていることが明らかとなりました。

不妊治療の患者数
不妊に悩み、不妊治療を受けている患者さんの数は増えています。国立社会保障・人口問題研究所が発表した「出生動向基本調査」(2010年調査)によると、不妊の検査や治療経験のある夫婦の割合は、近年増加傾向にあることが分かります。不妊の検査や治療の経験がある(治療中を含む)夫婦の割合は、2010年には全体で16・4%となり、2005年(前回調査)の13・4%から3ポイント増えています。子どものいない夫婦に限ると、28・6%でした。調査時点で治療中の夫婦は、全体の1・5%でした。不妊の検査や治療を経験した夫婦を年齢別に見てみますと、妻が20代の場合は10・1%ですが、30代は17・8%、40代は16・3%と上昇しています。女性の晩婚化を背景に、不妊症の検査経験、不妊治療を受けるカップルの割合は近年増加傾向にあります。

いつから不妊治療を始めましたか?
某クリニックにおける直近8ヵ月間の初診患者さんの年齢分布を表したものです。分布を見ると、一番多い年齢層は30代後半ですが40代にも大きなピークがあることが分かります。ここ数年、当院も不妊治療を受けに来院する患者さんの高齢化が進んでいます。この背景には、女性の社会進出に伴う晩婚化等の社会的要因があげられると思います。そのため、高齢で不妊治療を始める女性や高齢での妊娠・出産をする女性が増えているのです。

年齢別体外受精(採卵)件数
上記に示したのは「体外受精」に限った時の年齢別の分類です。過去3年間の某クリニックで体外受精を行っている患者さんの年齢別データを調べてみると、年齢の分布は42歳が最も多く、全体の平均年齢は39・7歳でした。初診患者さんの年齢分布のピークが34歳であるにもかかわらず、体外受精のそれが40歳以上であることから、女性の年齢が40歳前後の方から高度な治療を選択する必要性が急激に高まってくる現実が浮かびあがってきます。

年齢別採卵個数
体外受精の重要ポイントの1つに「採卵」があります。採卵によって回収できる卵の数が多いほど、妊娠のチャンスも増えるからです。図は採卵刺激方法を問わず、―回の採卵数を年齢別に分析したものです。平均採卵個数は25歳の方で10個前後、35歳で5個前後、40歳では1~3個と、年齢が進むにしたがって、採卵個数は減少します。数学的な処理を行うと、年齢と採卵個数には直線的な負の相関関係があることが分かりました。

年齢別胚盤胞発生率
胚(受精卵)は、受精後2日目で4分割、3日目で8分割へと成長していきます。4日目には16分割になりますが、この頃になると細胞同士は密着し、桑実胚と呼ばれる状態になります。さらに成長が進み、5~6日目になると真ん中に胞胚腔という空洞が出てきます。この胚を、胚盤胞(受精卵の着床前の状態)と呼びます。胚盤胞の細胞数は300~400個となり、ここまで発育した胚は初期胚に比べて着床率が格段に良くなります。そのため、受精した胚が胚盤胞の段階まで分割してくれるかどうかが、不妊治療の成功の大きな鍵となります。一般的に採卵した卵が受精する確率が60~70%、受精した胚が胚盤胞まで到達する確率が35~40%とされています。図は、某クリニックで体外受精を行った患者さんの胚盤胞到達率の年齢別分布です。40歳未満では胚盤胞発生率は50%以上と非常に良好な成績を維持していますが、40歳を過ぎると右肩下がりになってきます。わたしたちは卵の培養環境の維持や向上に日夜全精力を注ぎ込んでいるわけですが、この傾向はなかなか改善できません。

移植回数別の累積妊娠率
グラフは、胚移植(胚を子宮腔内に移植すること、)の回数ごとの妊娠率を示したものです。このグラフから、4回目の胚移植までに約7割の方、7回目の胚移植までに約8割の方が妊娠していることが分かります。

年齢別体外受精妊娠率
最後は体外受精・胚移植をした患者さんのうち、どのくらいの方が妊娠しているのかを年齢別に表したデータです。不妊治療の渦中にある患者さんが最も知りたいデータだと思います。一般的な移殖1回あたりの妊娠率は20~30%といわれています。某クリニックの成績で見ると、39歳前後までは妊娠率は25~35%前後と高い水準を維持していますが、やはり40歳を過ぎたあたりから急激に下がってきます(20歳代で大きなばらつきがあるのは母集団が少ないため)。このデータから言えることは、30歳と31歳、あるいは35歳と36歳の違いは大して問題にならない一方で、40歳と41歳、41歳と42歳の違いは不妊治療成績に相当大きな影響を及ぼすという厳しい現実です。今後の治療の参考になるようにと年齢ごとの妊娠率などできるだけ客観的なデータを提示しました。データを通じて、医療の現状を患者さんに学んでいただくことにより、安心して治療を受けていただくことを望んでいます。次に、実はあまり知られていない「卵子の老化」についてお話ししたいと思います。

妊娠・卵子の老化とは?

広く蔓延している誤解
「生理さえあれば妊娠できる」「排卵があれば妊娠できる」と考えている方は案外多く、これが社会に蔓延している不妊症治療の大きな誤解の1つです。現在、日本人女性の平均閉経(月経が終わること)年齢は、51歳くらいといわれています。そうすると40代後半でも普通に妊娠が可能ということになってきますけれども、卵巣の機能低下は閉経の13年前くらいから始まるといわれています。卵巣から排卵はしていても、卵の質というのは年齢とともにどんどん下がっていきます。特に、30代後半からは急激に低下してしまいます。その変化のカーブは直線的ではなく、40歳前後を境目として急峻になります。「本格的な治療はまだ早い、もうしばらくは最低限の治療でやっていきたい」という要望のもと、タイミング療法、または人工授精のみを漫然と続けているうちに、ある時期を境に急に排卵がなくなってしまい、不妊治療自体を断念する、という患者さんを、わたしたちは何人も経験しています。つい、さっきまでは明るかったものが、ふと気付くととっぷり日が暮れてしまっている。卵子の老化はちょうど秋の夕暮れみたいなものです。卵子は、日々新しくつくられる精子と違い、決して新しく再生することはありません。卵子の数は胎生20週頃、つまり皆さんがまだ生まれる前にピークを迎え、その後は減り続けるのみです。「排卵」というプロセスは、生まれながらにして持っている在庫を小出しに放出していくことに他なりません。保存期間が長くなれば長くなるほど、卵細胞は老化していきます。20代と40代、見かけは同じように排卵していても、排卵してくる卵の中では、随分と「老化現象」が進んでいるわけです。では「細胞の老化現象」とは具体的に何を指すのでしょうか? 細胞は細胞質と核という小さな器官から構成されます。核内にはDNA(遺伝子)がコイル状に巻きついて遺伝情報をつかさどる染色体を形成します。DNAは不安定な物質で、紫外線などの外的刺激に曝される時間が長くなればなるほど、異常の度合いが増加してきます。また細胞質にはミトコンドリアというエネルギー生産工場や、多彩な役割を果たすさまざまなタンパク質が存在します。これらの物質も当然加齢して衰えていきます。受精卵は卵子と精子が結合してできた全く新しい細胞ですが、誕生したばかりの受精卵は自分自身でタンパク質などを産生することができません。最初の数日間は、卵子内のパーツを用いてしのぎます。つまり全く新しい受精卵であるにもかかわらず40歳での妊娠であれば40年前の、20歳であれば20年前の材料から構成される受精卵ということで、両者のクオリティ(質)は全く変わってくることが分かると思います。こうした卵子内での経年変化が、受精卵の分割率、受精率、体外受精における胚のグレード(状態)分類、胚盤胞到達率、着床率に大きく影響するのです。

月経周期が早まるのは卵巣機能低下のサイン
よく「最近月経(生理)血の量が少なくなってきている。生殖機能が衰えているのではないか。心配なので検査してほしい」という相談をいただきます。基本的には月経量と卵巣機能は関係ありません。卵巣機能の衰えを自覚する徴候はなかなかありませんが、1つだけあります。それは月経周期です。卵巣機能が低下すると、生理の間隔が間延びするようになると思われがちですが、実は逆で、月経周期が早くなってきます。これは、月経開始日から排卵日までの間隔が短くなっていることが原因です。今まで大体28~30日周期とほぽ月―回ペースできていた月経が25日周期、24日周期、場合によっては3週間足ちずと、だんだん短くなることが起こってきます。もし、ご自身で「最近、月経周期が少しずつ短くなってきた……」と感じているなら、それは卵巣機能が衰えを示す「黄色信号」の可能性があります。早めに積極的な不妊治療を考えるきっかけにしてください。わたしたちも、治療中の患者さんで月経周期の明らかな短縮を認める場合は、治療方法の早めのステップアップをお勧めするようにしています。もちろん、月経周期の短い人すべてが卵巣機能が低下しているというわけではありませんので、過度の懸念は無用です。超音波検査で卵胞モニタリングを行うと、排卵周期が簡単に分かりますので、思い当たる方は一度産婦人科を受診されるとよいでしょう。

卵巣年齢とは?
年齢が高くなるにつれて卵巣機能は低くなります。そして、その低下の度合いは40歳前後、まさにアラフォー世代を境に急降下してくることを前述しました。しかし、必ずしも実年齢と卵巣の年齢が一致しない場合があることをご存じでしょうか?ギネスブックでは、スペインの女性が66歳で双子の男の子を出産したのが最高齢とされています。わたしの周りにも、不妊治療を一切することもなく、45歳前後で自然妊娠をしている方が何人もいます。逆に、「早発閉経」といって、30歳代のうちに閉経を迎えてしまって、すべて手立てがなくなってしまう方もいます。その違いは、どこからくるのでしょうか。それは卵巣の年齢が必ずしもその女性の実年齢と相関しないからです。これが「卵巣年齢」と呼ばれるものです。わたしたちが不妊治療を行っていく上で、実年齢以上に大きな指標とするのが、この卵巣年齢なのです。実年齢よりも卵巣が若い方もいれば、その逆に実年齢よりも卵巣が老いてしまっている方もいます。その違いが妊娠のしやすさに如実に反映されてくるのです。

早期閉経
30~40代前半の女性に起こる症状で、卵巣年齢が閉経年齢に達してしまっている状態をいいます。実際には、早期閉経(早発閉経)はそれほど頻度の高いものではありません。その頻度は30歳未満で1000人に1人、40歳未満で100人に1人程度と推定されています。原因として、染色体異常(ターナー症候群など)などの遺伝子異常、自己免疫疾患との関連が明らかになっていますが、原因不明であることが最も多いです。ターナー症候群は、X染色体(性染色体)の2個のうち1個が欠損または部分的に欠けるために起こります。女性2000人に1人の頻度で発生し、女性で最も多い性染色体異常です。主な症状は低身長と2次性徴(胸のふくらみ、月経)の欠落などで、全く2次性徴がない場合、少しはある場合(初潮があり、その後の月経もある)などさまざまな程度があります。最近では「モザイク型ターナー症候群」というX染色体が2本ある正常の細胞と1本しかない異常細胞が混在している軽症のターナー症候群が存在することも明らかになっています。モザイク型ターナー症候群では、卵巣機能低下は比較的軽微な場合もありますが、残念ながら、それでも妊娠・出産できる大は少数派にとどまっているというのが現実です。

子宮の老化
加齢が及ぼす影響は、卵巣と子宮とでは大きく異なります。卵巣というのは、遺伝子を次世代へ残すための卵子が入っている臓器です。一方、子宮は赤ちゃんが着床するための袋状の臓器で、卵巣とは根本的に違います。その袋は、厚い筋肉の壁でできています。このため、胎児をつくりだす部分ではなく、厚い筋肉の壁でできている受精卵を受け入れる嚢だけの機能しか持ちません。このため、子宮は卵巣に比べて年齢の影響を受けにくい臓器といえます。ここに、年齢が高くても卵子さえフレッシュであれば、妊娠は可能である、という理屈が成り立ちます。日本でも60歳の女性が国外で卵子提供を受けて妊娠し、男の子を出産したというニュースが報道されたこともあります。このように、卵子提供を受けて自分の子宮の中で妊娠をする、という選択肢が可能になるのも、子宮機能は年齢の影響を受けにくいことが前提にあるのです。ここで、勘の鋭い人はもう1つ選択肢があることを思いついたかもしれません。子宮は老化しないのであれば、若いうちに受精卵をとっておいて凍結保存できたらどうでしょうか? 現在の不妊治療現場では、精子や受精卵の冷凍保存ということが一般的になっています。約マイナス200℃で窒素冷凍された細胞は半永久的に老化することはありません。つまり、時間を止められるわけです。受精卵の凍結ができれば、子宮は年齢影響を受けないので、移植をする時期、妊娠をする時期は1年後、2年後、場合によっては閉経後でも妊娠率にそれほど影響がないということが分かると思います。

卵子と精子の違い
繰り返しますが、排卵や月経さえあれば妊娠できるというのは間違った考え方です。平均的な閉経の年齢は50歳前後ですが、卵巣機能の低下はその10数年前から既に始まっています。卵子は生まれた時からずっと卵巣に保存され続けていて、生まれ変わることは決してありません。妊娠20週前後に、700万個もあった卵子はその後どんどん減少していき、出生時には既に3分の1程度になり、さらに排卵が始まる前に10分の1程度まで減ってしまいます。その後、排卵が起こると毎月1000~2000個の卵子が減少していき、50歳前後で閉経を迎えます。ちょうどお母さんのおなかの中で蓄えた貯金を、徐々に消費していくようなものです。人間は月に1個しか排卵しませんが、その陰で、1日に換算すると毎日50個程度の卵子が死滅している計算になります。一方、精子は常に新鮮で若い精子がつくられます。精巣内では「幹細胞」という細胞が常に分裂を続けています。そのため、精子は常に新しく産生され続けます。精子の寿命は約90日です。つまり、3ヵ月ごとに新しく生まれ変わっているわけです。これが、精子と卵子の決定的な違いの1つです。つまり、20歳で排卵される卵子は20年間、40歳で排卵する卵子は40年間、卵巣内に保管されていたものが排卵していくわけです。初期の受精卵は細胞骨格の大半を卵子に依存しています。従って、いくら精子がフレッシュでも、卵子が古ければその影響は無視できないものになります。時間が経てば経つほど、その間にDNAやタンパク質の変性、つまりは細胞の老化が進むことは想像に難くありません。染色体異常が原因のダウン症の発生頻度が、女性の年齢と如実に相関するのもこのためです。余談になりますが、日本生殖医学会では凍結をした精子及び卵子・受精卵の保存期間として見解を示しています。これによると、精子については、その男性が死亡するまでとし、卵子・受精卵については、採取した女性の生殖年齢を超えないまで、としています。これも、男性と女性の生殖可能年齢の違いを端的に反映しているものといえるでしょう。

妊娠に卵巣年齢と実年齢は相関しないことがある

排卵のメカニズム
卵巣から卵子が排出される「排卵」は、不妊治療を行う上で、最も重要なできごとです。ここでは、簡単に排卵のメカニズムについて勉強しておきましょう。まず、脳の中にある視床下部(ホルモン分泌の司令塔)というところから性腺刺激ホルモン(GnRH)が分泌されます。次いで下垂体(いろいろなホルモンを分泌する内分泌器官)より卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)という排卵を促すホルモンが分泌され、卵巣を刺激し、刺激された卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)が脳に作用して排卵が起こります。このホルモンの刺激で卵巣の中で卵子がつくられ、一番元気のある卵子のみが排卵に至ります。卵子の成熟は、月経開始時に始まっておよそ2週間で成熟し、排卵に至る、と思っている人が多いようですが、実際には、卵子の成熟は約2周期も前に始まっており、1つの卵子が排卵するまでに最低90日くらいかかるといわれています。ですので、数カ月単位の長期間にわたる強いストレスや体重の急激な増減がない限りは、すぐに卵巣機能に変化が起こるということは考えにくいと思います。それ故、ちょっとした単発的なストレスで急に無排卵になったりすることは考えにくいかと思います。

卵巣年齢はどのように調べるの?
前章で述べたとおり、不妊治療に関しては実年齢より卵巣機能から見た「卵巣年齢」が重要になります。では、卵巣年齢はどのようにして推定するのでしょうか。現在、不妊治療の現場で用いられている方法は大体3つに分けられます。1つめは超音波による検査、2つめが血中FSH値の測定、3つめが抗ミユーラー管ホルモン(AMH)という血中ホルモン値の測定です。これらの検査を組み合わせることで、現在の卵巣年齢が何歳くらいかを推定することができます。超音波検査では、月経開始時に卵巣内に存在する直径3~10皿の「胞状卵胞」の個数をカウントします。胞状卵胞とは、これから発育する卵胞の。発芽前の種々のようなもので、これが多ければ多いほど、卵巣の機能が良い、ということになります。下垂体から分泌される性線刺激ホルモンであるFSHも、卵巣機能を反映します。FSHは卵巣を働かせるための命令ホルモンです。卵巣の機能が良ければ「分泌しなさい」という指令を出す必要がないので、血中FSHの濃度は下がり、逆に卵巣機能が悪くなると上昇します。つまり、卵巣機能とFSHの値はあべこべの関係になります。AMHは、女性の発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンです。AMHの値は、これから発育して大きくなる可能性がある卵(原子卵胞・前胞状卵胞と呼ばれます)がどれだけ卵巣内に残っているかを反映します。卵巣内の卵のストックの評価と考えればよいでしょう。超音波検査、FSH値測定検査では、いずれも月経周期による変動が大きいため、検査日が限定されるという制限があります。また、周期によって検査結果が変化することも知られています。一方、AMHは月経周期の
影響をほとんど受けず、いつでも検査が可能という特徴があります。つまり、卵巣の予備機能を知る指標としては、AMHが最も簡便で正確な検査として普及していて、「卵巣年齢=AMHの値」と見なしてもよいでしょう。

卵巣年齢は簡単な採血で調べることができる
現在、AMHはどの施設でも腕からの採血のみで簡便に測定できるようになっています。AMHの測定は保険適用外で、費用はおおよそ1万円で結果の判定には数日間を要します。

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年齢別平均AMH値
図は、某クリニックにおける過去約1年問の初診患者1500名のAMH値を調べた結果です。検査会社が公表している平均値を基に、その値が①年齢相応か②年齢より1~4歳程度低い(若い)か、あるいは高い(老いている)か③年齢より5歳以上低い(若い)か、あるいは高い(老いている)か、を調べたデータです。これによると、卵巣年齢と実年齢が一致している患者さんの割合は48%で、残りの52%は卵巣年齢と実年齢に明らかな乖離があることが分かりました。卵巣年齢が実年齢よりも5歳以上高齢になってしまっている方が10%、またその逆のケースは6%でした。30歳前後の方でも、AMHの値は0,1ng/ml(ナノグラムミリリットル)未満と検出感度以下になる場合もあります。これは、残された卵子の数が非常に少ないということで、かなり閉経に
近いことを示している値であり、非常に厳しい結果といえます。こうした場合では、早発閉経の可能性もあり得るので、詳しい検査が必要になります。その一方、40歳以上の方でもAMHの値から推定した卵巣年齢が20歳代としか考えられないような方も多くいます。世間には40歳を超えて自然妊娠されるような方も大勢います。そのような方のAMHの値を測定してみると、おそらく相当卵巣年齢が若いという結果が出ることと予想されます。

AMH値を参考に治療戦略を考える
某クリニックでは、初診時に必ずAMHを測定するようにしています。そして、AMHの値に加えて、実年齢、FSH値、月経初期の胞状卵胞数よりなるべく客観的な治療戦略を考えるようにしています。この中で、最も大きなウェイトを占めるのがAMHから推定される卵巣年齢です。自然妊娠を希望される場合、たとえ実年齢が40歳前後でも卵巣年齢が若いと診断された方には「しばらくはなるべく自然にトライしていきましょう」とお話しします。逆に実年齢が30歳と非常に若くても卵巣年齢が10歳以上高齢であれば、「時間的に余裕がないので、できればすぐに体外受精をしましょう」という話をする場合もあります。ただ、AMH値だけですべてが決まるわけではありません。たとえば初診時のAMH値が非常に低く、厳しい闘いになることが予想されている方でも、FSHの値が良い周期には、複数の排卵が期待できる場合もあります。ですから、AMHの値だけを金科玉条とすることは禁物かと思います。一方、AMHとFSHの両方とも悪い数値が続くとホルモン的には閉経に近い状態になっていると思われます。患者さんには周期ごとに来院してもらい、数値の評価を継続して行っていきます。数値が良い時には排卵に向けた治療を行い、数値が悪い時には、「また来周期にしましょう」とお伝えし、撤退することになります。悪い数値が続く場合は「今周期もやめておきましょう」を繰り返すことになります。中には半年以上も撤退を繰り返すような患者さんもたくさんいます。そうした場合には、「不妊治療自体がストレスになっていませんか。ストレスになっているのであれば治療を無期延期で休んでみましょう」ということを患者さんの表情を見ながらお話しすることもあります。ただ、ここがなかなか難しい点で『今回ダメだった場合、あきらめよう」と思っていた方が半年ぶりにポンと排卵して卵を採れることもよくあります。患者さんには「早発閉経、AMHの値が低い、FSHの値が低い人というのは大海原で孤独に釣り糸を垂らしているようなもの」とお話しします。わたしの勝手なイメージかもしれませんが不妊治療の患者さんたちは孤独な釣り人、そんなイメージです。いつ妊娠するか分からないので常に気をはっていないといけないところはありますが、水面の浮きだけを凝視していればヘトヘトに疲れてしまいます。患者さんには、「ほどほどに、つかず離れず続けていきましょう」と申し上げています。

40歳からの最新不妊治療

40歳からの不妊治療
厚生労働省の出生動向基本調査によると、日本の年間出生数は、1970年(昭和45年)には193万人でしたが、2010年(平成22年)は107万人とこの40年間で半減しています。驚くべきは、総数としては半減しているのに35歳以上での出産が増加していることです。1980年(昭和55年)と比較してみると、35~39歳では6万人から22万人と3、7倍になり、40~44歳では7000人から3万4000人と実に5倍に増加しているのです。就労増加という女性の社会進出に伴う
晩婚化が大きな要因であることは、疑いの余地がありません。であるのなら、この傾向は今後ますます顕著になると思われます。現在の情報社会の中で、男性でも女性でも社会人になって、一
人前になるには相当時間がかかるものです。しかし、どんなに社会が(イスピードで発展しても、卵巣の機能だけは別です。ようやく社会的にも安定して、時間にも余裕ができて、「さあ、これからはゆっくり子作りを」と思った時には卵巣が老化しきっている、という構図には不条理を感じざるを得ません。しかし、これが現実なのです。30代前半で卵巣も非常に若い患者さんを妊娠させることは容易いことです。しかし40代の患者さんとなると全く見通しが変わってきます。わたしたち不妊専門医の使命は、この卵巣機能が低下しつつある世代の方々を英知を集めてどうやったら妊娠させるかです。過剰な期待を持たずに、過剰な不安を抱かずに、正しい現状認識をもって治療に臨んでいきましょう。不妊治療がその夫妻の人生を豊かにする1つの材料となるのであれば、わたしは本望と思っています。

不妊症の治療内容

40歳以上の妊娠が難しいといわれることには、2つの理由があります。1つめは、卵子の個数、すなわち量の問題です。不妊治療の現場では排卵誘発剤(卵子が卵巣から排卵されるのを促進する薬)を使用して、複数の卵の発育を誘導することが行われています。しかし、加齢に伴って、卵巣の反応性が非常に悪くなるので、排卵誘発剤を使っても、発育してくれる卵胞数が減少してしまいます。2つめは、卵子の質の問題です。体外受精を例にとるとよいでしょう。たとえ複数の卵が発育してくれて、採取できたとしても、加齢に伴って卵子の質が悪くなってしまっていて受精率が下がるといったトラブルが起こります。また、受精をしても分割しない、グレードが悪い、分割が途中で止まることも如実に多くなってきます。つまり40歳以上の方の治療を行う際には、この卵子の「質、量の低下」と常に向き合っていく必要があります。ここで、不妊症の治療について、概説します。実際の不妊治療の手段はタイミング療法、人工授精、体外受精、そして内視鏡外科手術(卵管鏡、子宮鏡、腹腔鏡手術)の4つに大別されます。これらを順次、あるいは同時に効率よく組み合わせながら治療の戦略を立てていきます。内視鏡外科手術は妊娠率を低下させる要因として、子宮筋腫や子宮内膜症、あるいは卵管閉塞などの疾患が見つかった場合に行うものです。某クリニックでは、年間800件近い生殖内視鏡手術を行っています。詳細は前著に譲りますが、手術療法と生殖補助医療を組み合わせることによって、大幅な妊娠率の向上が期待できます。最も一般的なのは、まずはタイミング療法から始め、その後人工授精に移り、それでも妊娠しない方は体外受精を試みるといういわゆる「ステップアップ法」といわれるパターンです。

タイミング療法
排卵日前後に、精子が卵管(卵巣から子宮または体外へと卵子を運ぶ細い管)内に到達することで初めて妊娠が成立します。この排卵日を推定し、性交渉の日時を誘導するのがタイミング療法です。基礎体温をつければ、自分でもある程度は排卵日を予測することができます。

人工授精(AIH)
排卵があるにもかかわらず妊娠しない場合には、タイミング療法などの次のステップとして、人工授精が試されることがあります。人工授精とは、細いチューブ(カテーテル)を用いて、精子を女性の子宮あるいは卵管に人工的に送り込んで妊娠を望むという方法です。副作用はごくまれに、感染を起こすことがあります。感染予防のため、授精日から2日間は抗生物質を処方します。また、人工授程度で、仕事を持っている方でも両立は十分可能です。採卵は、いつでもできるわけではなく、排卵のタイミングに合わせる必要があります。つまり、卵巣からまさに飛び出そうとしているその瞬間に合わせて卵胞に針を指して卵をとりだすのです。とりだした卵に精子を作用させると、受精卵になります。受精の方法には、2つあります。精子と卵子を培養液が入ったディッシュ(培養容器)の中で自然にかけ合わせる方法(通常媒精)と、一匹の精子をピックアップしてそれを細い針に吸い上げて卵子細胞質に打ち込む方法(顕微授精)です。よく患者さんから「ふりかけにするのですか? 顕微にするのですか?」という質問をいただきますが、世間で出回っている「ふりかけ」という言葉は前者の通常媒精を指す言葉と思われます。顕微授精を行うか、通常媒精とするかはケースバイケースです。一般的に顕微授精を行うのは、精子の所見(診断)が通常媒精を行う基準(卵子‥精子=―一10~30万)に満たない場合に行われますが、判断基準は病院によってまちまちのようです。一般に通常媒精の受精率が60~70%程度、顕微授精は70~80%程度と、受精率だけで見ると明らかに顕微授精の方が有利ですが、分割率、胚盤胞到達率で見ると、通常媒精の方が成績はやや良好になる場合が多いです。また顕微授精を行うと費用も高くなるので受精方法は毎回、患者さんと相談しながら決めていきます。複数の卵を採取できた場合には、通常媒精と顕微授精を半々に分ける場合もあります(この方法は、「スプリット」と呼ばれています)。得られた受精卵(胚)を子宮や卵管に戻すことを、「胚移植」といいます。採卵後、数日以内に(同じ周期内に)受精卵(胚)を子宮内に戻すことを、新鮮胚移植と呼びます。採卵後、新鮮胚移植されなかった受精卵はマイナスー96℃の液体窒素を用いて凍結保存しておくことができます。この凍結した受精卵を採卵した周期とは別の周期に融解(解凍)してから移植する方法が凍結融解胚移植です。新鮮な胚を移植した方が妊娠率は良さそうに思われますが、実はこれは間違いです。一度凍結を行うことで、子宮の環境をリセットすることができるため、結果的に妊娠率の向上につながるのです。また、近年「ガラス化法」という新しい凍結技術が普及し、凍結融解という操作による受精卵への細胞傷害も無視できるレベルになったことも凍結融解胚移植の成績向上の大きな要因です。現在、日本では約60%の体外受精出生は凍結融解胚移植による妊娠になっており、この数字からも、凍結融解胚移植の有効性が分かるかと思います。ここで、体外受精の歴史について、少しお話しします。世界初の体外受精児は、1978年に英国で誕生しました。日本は1983年に東北大学医学部付属病院の産婦人科教授であった鈴木雅洲先生を中心とするチームの手により、初めての体外受精が成功しました。以来、国内においても体外受精による妊娠は年々増え続けています。体外受精に対しては「不安」「心配」「怖い」などと抵抗感をもつカップルはまだまだ多いようですが、体外受精は日本でも1982年から導入され、今では大病院から一般の診療所・クリニックまで幅広く行われている生殖補助医療です。体外受精による妊娠数は年々右肩上がりに増え続け、現在(2012年)の日本では、年間2万人以上の体外受精の赤ちゃんが誕生しており、これは40大に1人の妊娠が体外受精由来という計算になります。学校のクラスに当てはめると、1クラスが40大とすれば、クラスに1名は体外受精由来のお子さんがいることになります。

体外受精の危険性について
いざ、体外受精を始める前に必ず聞かれる質問がリスクに関することです。当院の体外受精説明会などでは危険性について、3点お話しするようにしています。前著では、教科書的な副作用として6つの項目をあげて解説しました。某クリニックでは年間1000件以上の体外受精を行っていますが、実際の診療の中で遭遇する合併症はこの3つにほぼ絞られてくるためです。1つめが、卵巣過剰刺激症候群(Ovarian Hyper-stimulation Syndrome I OHSS)という聞きなれない病名です。卵巣過剰刺激症候群は、文字どおり、排卵誘発剤に卵巣が過剰に反応してしまった際に生じます。通常の卵巣は直径2m、親指の頭程の大きさですが、卵巣過剰刺激症候群が重症化すると、10m以上に腫大する場合もあります。軽症~中等症では外来での経過観察で済みますが、重症化すると腹水・胸水が貯留するため、入院管理が必要となる場合があります。何リットルもの腹水が溜まってきた場合には、おなかに針を刺して腹水を抜くこともあります。この際、血液の濃縮が進みすぎると、ごくまれに血栓症を引き起こすこともあります。一番大事なことは排卵誘発剤の使用量を調整することにより卵巣過剰刺激症候群の発症を未然に防ぐことです。適切な予防と管理によって大抵の場合は軽快しますが、これまで、血栓症による脳梗塞や死亡例も報告されており、侮れない合併症といえます。2つめが、多胎妊娠(二人以上の胎児を同時に授かる状態)の問題です。以前は移植する胚の数に規制などはなく、妊娠率を高めるために2個以上の胚を移植することは一般的でした。幼少時に、テレビで「5つ子ちゃん特集」の番組を観た記憶があります。その当時は何も分かりませんでしたが、今考えるとおそらくこれは複数胚の同時移植による結果なのだろうと思います。番組自体は微笑ましいもので、幼心に楽しみにしていた記憶がありますが、現在の社会では、多胎妊娠は「リスクの非常に高い妊娠」として、妊娠率を多少犠牲にしてでも、回避すべきものとして捉えられます。現在、日本では日本産科婦人科学会が出した「生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一(1個)とする」という会告(自主規制)に基づき、単一胚移植が進んでいます。日本は世界に先駆けて移植胚数の制限に取り組んできた結果、多胎率は、20%の欧米と比較し、7%程度に抑えられています。某クリニックでも、患者さんから「妊娠率を上げるために2個以上移植してほしい」という希望をいただくことがあります。しかし、多胎妊娠予防の観点から単一胚移植を推奨しています。ただし、日本産科婦人科学会は会告で「35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」としていますので、状況に応じて患者さんと相談しながら移植胚数を決めるようにしています。3つめは、先天異常の問題です。体外受精によって、先天奇形などの障がいのあるお子さんは増えるのでしょうか?表は、体外受精による先天奇形の発症率の研究をまとめたものです。論文の発表年数が少し古いですが、ここにあげたデータは先天奇形の増加を否定しています。その一方で、逆に「先天異常が増えた」というデータも少なからず存在します。なぜこのように矛盾したデータが出てくるかというと、それはある先天奇形が出現したとき、それが本当に体外受精によるものなのか、それとも他の要因によるものなのか、因果関係を検証するのが難しいという側面があるからです。たとえば、女性の加齢そのものも先天奇形発症の大きなリスク因子になります。しかし、体外受精は実用化されて既に30年以上が経過し、世界中でここまで爆発的に普及しています。こうした事実からも、治療の技術そのものの安全性は歴史的に確立しているように思います。

卵巣機能の低下は予測できない
「医学の進歩で平均寿命がこれだけ延びたのだから、妊娠可能な年齢だって延びて当然だろう」というような話を、他科に進んだ同僚の医師も含め、何人かの知人から聞かされたことがあります。医療関係者ですら卵巣機能の低下について誤解しているわけですから、一般の方々で正しく理解している方が少ないのも頷けます。一般的に、女性の妊孕能(妊娠できる能力)は38~39歳くらいを境に低下していきます。そして、40歳を過ぎるとさらに急激に下降していきます。体外受精の妊娠率、胚盤胞の到達率は40歳ぐらいまでは大して差はありません。しかし、40歳くらいから急に下がります。卵巣機能の低下は野球やサッカーなどのプロスポーツ選手の寿命と似ているかもしれません。スポーツ選手も、ある時期を境に急激に衰えが激しくなることが多いように思います。しかし、これは全体的としての話です。個々で見るとさまざまな患者さんがいます。たとえば、卵巣年齢が若い人で、まだまだ時間の余裕があるだろう、と思っていた人が、急に数カ月の間にガクッと卵巣機能が低下することがあります。その一方で、初診時より既に卵巣機能低下が著しい方が低空飛行を続けながらもその状態を維持して、妊娠されて卒業していくというケースもよく経験します。

いきなり体外受精に進むのが一番の近道?
タイミング療法、人工授精、体外受精の妊娠率はどのくらい違うのでしょうか。1回あたり(体外受精の場合は移植あたり)の妊娠率は、一般的にはタイミング療法が5~7%、人工授精は6~9%、体外受精の場合は20~30%程度とされています。治療の方針決めについては、このように、なるべく数字を交えた医学的根拠を提示しながら、決して押しつけになることがないように心がけています。一般的な不妊治療は、タイミング療法→人工授精→体外受精のステップアップが基本です。大まかな治療のスケジュールは、タイミング療法から人工授精までは半年~1年程度で、体外受精は最後の手段と位置付けられることが多いです。しかし、40歳以上の方の不妊治療では、このステップアップ方式を順序立てて踏んでいく時間的余裕がないのです。人間の排卵は、1ヵ月に1回しか起こりません。つまり、年間に換算すると約12回、その12回をどのように有効に使うのか。女性の体は、妊娠を待ってはくれません。もう少し自然周期でのタイミング療法を行っていたいと望まれて大事な時期を逸してしまい、「もっと強くステップアップ治療を勧めておけばよかった」と臍を噛むようなことをわたし自身何度も経験しています。日本産科婦人科学会の会告を引用すると、体外受精とは「これ以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される」患者さんを対象にした治療法と定義づけています。けれども、40歳以上の方にこの指針をそのまま当てはめて治療をしているとゴールデンタイムを逸してしまう可能性があります。ですから40歳以上の患者さんへのアドバイスとして大事なポイントは杓子定規にステップアップ法に拘らず、タイミング療法、人工授精を飛ばして最も妊娠率が高い「体外受精」という選択肢を最初から提示することです。繰り返しますが、40歳以上あるいは卵巣機能が衰えている方は、ステップアップ治療で時間を浪費してしまうのはもったいないと言わざるを得ません。ですから体外受精を早い時期から指導する、お勧めすることは大事な不妊治療戦略の1つとわたしは思っています。実際、某クリニックでの過去半年の外来患者さんのデータから、40歳以上の方で体外受精を開始した患者さんの内訳を集計してみると、タイミング療法を経てから体外受精を始めた方が13%、人工授精を経ている方が33%、タイミング療法と人工授精、両方を経験している人が19%、残りの35%の方は他の治療方法を全く経ずに体外受精を開始していました。また、初診時に40歳以上の方で治療経験が全くない方に体外受精をお勧めすると、印象として約5割の方が「わたしたちも体外受精でいこうと思っていました」と言います。2~3割の方はいろいろな検査をし、何回か受診をするうち、病院で話を聞くうちに体外受精にトライすることを決断されます。残りの方は、「体外受精という選択は考えていないので、自然の中での妊娠を希望したい」ということで自然妊娠の方法を模索する、そういう感じです。ただ、今まで全く不妊治療を受けていらっしやらない方が、初診からいきなり「体外受精をしましょう」と言われても面食らうばかりで逆効果になりかねない場合もあります。また、「体外受精なんて最後の手段」と思っている人に「体外受精しかありません」などの話をすると、その話かトラウマになってしまって妊娠をあきらめてしまう、という方もいらっしやいます。妊娠をする手段として、自然に近い方が良いに決まっています。ただ自然にこだわり過ぎると時間の浪費になってしまう可能性もあります。治療の選択権は、患者さんにあります。必ず「治療成績最優先の方法か、自然な妊娠方法を優先するのか」を患者さんに選択してもらいます。1回ではなかなか理解を得られにくいこともあるので、時間と回数を重ねて説得と相談というスタンスで一人ひとりにあった治療方針を決めるようにしています。

40歳以上の方は排卵誘発剤に対する反応が悪くなる
人間は、基本的には1回で1個の卵しか排卵されません。しかし、排卵誘発剤を使用することによって複数個の排卵を期待できます。特に、体外受精では、世界的にも排卵誘発剤を用いた治療が一般化しています。排卵誘発剤という薬で卵巣を剌激して排卵を促進し、一度の治療で複数の卵子を得ることを目標とします。排卵誘発剤は、大きく分けて飲み薬(成分名一クロミフェンなど)と注射薬(さまざまな名称がありますが、総称してHMG製剤、FSH製剤と呼ばれます)の2種類があります。効果はやはり経口薬(飲み薬)よりも注射製剤の方が圧倒的に強く、連日注射を行うと場合によっては1回に10個以上の排卵を期待できる場合もあります。一方、飲み薬のクロミフェンは注射薬タイプに比べて効き方はマイルドですが、その分手軽に使用できるという利点があります。クロミフェンを用いた場合、排卵してくれる個数は1~5個程度です。クロミフェンにはよく知られた副作用があります。それは確実な誘発効果を有する一方、子宮内膜にはマイナスに働いて内膜が薄くなってしまう、というものです。内膜が薄くなると、せっかく排卵誘発ができても、着床しにくくなる可能性があります。この内膜の菲薄化(薄くさせる作用)はクロミッド(成分名‥クロミフェン)の用量、使用期間に依存して強くなる傾向があるので、注意が必要です。排卵誘発によって、排卵する卵子の数が多くなればなるほど妊娠できるチャンスも増えるわけです。一方、一度に10個以上の卵を発育させたところで、五人兄弟を目指して治療している人もいないでしょう。海外の体外受精についての研究で、「1回の採卵で何個の卵子を回収できている時に、最も妊娠が期待できるか」についての大規模な調査があります。その結果、8~10個くらいの卵が採れた時に最も妊娠が期待できていることが明らかになりました。この研究結果は海外のデータですが、もちろん日本人にも当てはまるでしょう。このような観点から体外受精では排卵誘発剤を使って卵巣を刺激し、できるだけ多くの卵子を採取する方法が世界的に定着しています。この刺激のことを「調節卵巣過排卵刺激(Controlled Ovarian Hyperstimulation!coH)」と呼んでいます。日本でも、体外受精の50%以上が過排卵刺激によるものです。ところが、卵巣年齢が高くなるといくら排卵誘発剤を使用しても卵巣は反応してくれなくなります。その理由こそ、卵巣の予備能の低下によるものです。「卵巣予備能(ovarianReserve:OR)」とは、文字どおり卵巣が有する潜在的な卵巣機能の予備力です。過排卵刺激をして、たくさんの卵が得られれば、妊娠をグッと手繰り寄せることができます。しかし、問題は個々の患者さんを選ばずに20代の方も40代の方も一律に過排卵刺激を行うことなのです。予備能が低下している患者さんに連日大量の排卵誘発剤の注射を行うことは、成果を期待できないばかりか、かえって患者さんの負担を増やすことになり、首をかしげざるをえません。注射の費用だって、ばかになりません。体外受精における排卵誘発剤は保険適用外なので、種類によっては1回の注射で1万円以上かかる場合もざらにあります。この注射を10日間行えば、それだけで10万円です。それでいて、排卵誘発に卵巣が反応してくれなければ、10万円以上の治療代が無駄になってしまうのです。卵巣年齢が高くなると注射薬の治療回数を増やしても、投与量を増やしても結局1個しか卵が採れない、ということが起こり得ます。生理的な排卵周期でも必ず1個は排卵するわけですから、これでは、わざわざ過排卵刺激を行った意味がなかったという見方もできるのです。連日注射をしても一切薬剤を使用しなくても、結果が一緒なのであれば、後者を選ぶ人がほとんどでしょう。卵巣予備能が低下した患者さんには、それに応じたオーダーメードの方法を追求する必要があります。この卵巣の予備能を予測する有効な方法の1つが、AMH検査です。AMHの値と体外受精における獲得卵子数の相関関係です。両者には奇麗な直線的な関係が得られます。そして、AMH値に加え、超音波検査による胞状卵胞数の測定、FSH値を組み合わせて、排卵誘発剤への反応が十分期待できる人と、そうではない人を振り分け、さらにその患者さんの以前の治療歴を加味しながら個
別化した治療指針を考えていきます。日本でも世界でも、体外受精の主流は過排卵刺激法です。それはそれで有効な方法、メインなのですが、過排卵刺激法をのべつまくなしに行うと卵巣への負担ばかりが大きくなってしまう可能性があります。

体外受精におけるさまざまな刺激方法
ここまで、40代の方では、ステップアップに拘らず、いきなりの体外受精もありうる選択肢であることをお話ししました。次に、その一方で体外受精を行う場合、排卵誘発剤による卵巣刺激に対しては反応が著しく悪くなってしまう可能性もお伝えしました。では、体外受精を行う際の卵巣刺激方法は具体的にはどのような方法があるのでしょうか?

刺激方法別説明図は、不妊治療を紹介した本やインターネットなど、いろいろなところでお目にかかることがあると思います。しかし、いくら読んでもなかなか理解できないものではないでしょうか?各々の刺激方法を机上の知識だけで正確に把握しようとしても経験しない限りは難しいと思います。おそらく不妊治療を勉強しようと思っている一般の方にとって、一番難解でとっつきにくい部分ではないでしょうか?ここでは体外受精の刺激方法について、もう少し砕いたかたちで概説しようと思います。まず、刺激方法は①高刺激(目標採卵個数10個以上)③中刺激③低刺激④無刺激(完全自然)の4つに大別されます。刺激法によって、目標とする採卵個数が異なります。高刺激法では10個以上、中刺激法では4~9個程度、低刺激法ではI~3個程度、無刺激法では1個というのが大まかな目安です。高刺激法は、本邦でも世界でも最もポピュラーな刺激方法です。「ロング法」「ショート法≒アンタゴニスト法」と呼ばれる3種類の方法が含まれます。いずれも連日の過排卵刺激を行うことが前提になります。刺激された卵巣はエストロゲンという女性ホルモンを活発に分泌するようになります。そのままにしておくと、まだ十分に卵胞が発育していない段階でも、脳が勘違いして、排卵の命令を出してしまうのです。このため、過排卵刺激をする際には、同時にこの脳の下垂体からの排卵命令が出ないようにしておく必要があります。通常この抑制に用いられるのが「ブセレリン酢酸塩(商品名はブセレキュア、スプレキュア)」と呼ばれる点鼻薬です。ショート法、ロング法の違いは点鼻薬の投与期間の長さの違いだけです(ロング法は約3週間、ショート法は約10日間)。アンタゴニスト法とは点鼻薬の代わりに通称「アンタゴニスト(商品名はガニレスト、セトロタイド)」と呼ばれる注射製剤によって自然排卵を防ぐ方法です。アンタゴニスト法では、より短期間(3~5日間程度)で下垂体機能を抑制することができます。これら高刺激法の特徴的な副作用として、「卵巣過剰刺激症候群」があります。中刺激法は経口排卵誘発剤と注射の排卵誘発剤を組み合わせた方法です。薬剤名をとって「クロミッド十HMG法」と呼ばれることもあります。注射も連日するわけではなく、2日に1回程度行います。低刺激法では経口排卵誘発剤のみで刺激を行います。注射がないので、患者さんの肉体的負担も相当軽減されます。そして、最後の「完全自然周期・無刺激法」では一切の薬剤を使いません。まるでタイミング療法のごとくに行う体外受精の方法です。

40歳からの過排卵刺激法
では、40歳以上の方に最適な体外受精の刺激方法はどのように考えるべきなのでしょうか?ロング法、ショーート法、アンタゴニスト法など過排卵刺激法の最大のメリットは、一度に数多くの卵子を採取できる点です。排卵誘発剤の大量投与など、いろいろと手間暇かかる代わりにそれだけのリターンが期待できるわけです。しかし、卵巣の予備能力が落ちている人に長期間使用すると刺激が強すぎて、かえってマイナスに働く場合があります。たとえば、どんなに卵巣機能が若い方でもこうした高刺激法を一度行うとその次に再び採卵を行うまでに最低でも1~2周期は間隔をあける必要があります。卵巣の機能が回復するのにしばらく時間がかかるからです。そうすると、相当タイトに予定を組んでも、1年に3~4回しか採卵できない計算になります。また、回を重ねるごとに獲得卵子数は漸減していく傾向があります。たとえば、一回目は15個、2回目は10個、3回目は8個……という具合です。20代の方ですらこうしたことが起こるのですから、40歳以上の方であればその影響はより顕著になります。某クリニックを受診される患者さんのうち、約3割が、どこかで既に体外受精の治療歴がある方です。こうした患者さんの中には、卵巣年齢が実年齢から大幅にずれてしまっている方が大勢います。そして、その患者さんたちに、過去の体外受精の治療内容の詳細な聞き取りを行うと、ロング法・ショート法などの過排卵刺激法が大多数なのです。こうした症例に当たるたびに思うことがあります。「排卵誘発剤の過剰投与がこの人の卵巣機能低下を招いたのではないか?」と。治療代もさることながら、過排卵刺激をすることによって、卵巣の疲弊と加齢を早めてしまい、結局後々の不妊治療に悪影響を及ぼす可能性があることを、わたしたち医師も、もっと留意する必要があると思うのです。患者さんには、「卵巣機能は長距離走みたいなものです」という話をよくします。走者(卵巣)が若ければ多少無理にスパートしても体力はちゃんと戻ってくるのですが、年齢を経てベテランの域に入っている走者であれば、そのまま力尽きてリタイア、ということも当然起こりえるわけです。では、どうするか。40歳以上の方には、従来の過排卵刺激法ではなくて、卵巣に負担をかけない優しい方法を提案しています。薬を全く使わないか、あるいは使っても注射は使用せずに内服の排卵誘発剤のみ用いるなど、なるべく自然な生理周期に近づけます。「クロミッド法」「完全自然周期法」などがこれに当たります。こうした方法は、患者さんに負担が少なく優しい、というところから、「フレンドリーIVF」と呼ばれることもあります。フレンドリーIVFでは、卵巣への負担が相当少なくなります。一回あたりの採卵個数は1~4個と少なくなってしまいますが、卵巣が疲弊する度合いが圧倒的に少なくて済みます。卵巣を休ませる必要などがないので、行おうと思えば、ほぼ毎周期採卵を行うことができるのです。わたしたちの病院では、過排卵刺激を行う卵巣年齢の上限について、大体の目安として36~38歳くらいまでと制限しています。一方で、45歳近くになっても、卵巣年齢が異常に若い方も少なからずいらっしゃいます。そうした患者さんには積極的に過排卵刺激を行います。卵巣年齢を客観的かつ個別に評すれば、十把一絡げの刺激は回避できるはずです。某クリニックで、40歳以上の忠者さんを対象に、刺激方法別の割合を調べてみました。過排卵刺激法にはロング法、ショート法、アンタゴニスト法の3つが含まれます。調査結果によれば、過排卵刺激を行っている割合は14%のみで、2/3以上が経口排卵誘発剤のクロミッドをペースにした刺激方法でした。完全自然周期の割合は、過排卵刺激とほぽ同等の11%でした。卵巣機能が衰えているところに過排卵刺激を行えば、増えるのは負担ばかりで徒労に終わる可能性があります。反対に、刺激を行えば反応性十分の卵巣であるにもかかわらず、完全自然周期を行えば、採卵の回数が増えるばかりで、大変効率が悪いのです。完全自然周期法は全く薬を使わない、採卵自体も1個の卵を刺すだけなので、無麻酔でかつ短時間に終わることができる、などの理由から、最も気軽にできる採卵の方法です。排卵さえあれば理論上は採卵することができるので、毎周期卵を採りにいくことができます。45歳を超えてくると、クロミッドにすら反応してくれないような場合も多くなりますが、こうした患者さんでも完全自然周期法を用いれば採卵することが可能になります。ただし、ここで注意すべき点が1つあります。後述しますが、「自然の方が卵子の質が良くなる」という誤解です。これは「有機農業で育てた野菜が一番新鮮で価値が高い」という概念にどこか似て、つい納得してしまいそうな理屈ですが、事はそんなに単純ではありません。自然周期採卵の方が良い卵が採れるなら、世界中すべて自然周期法が主流になっているはずです。インターネットなどで蔓延している「人工的な刺激は悪く、自然が良い」という誤解を鵜呑みにしてしまうのは禁物です。某クリニックでは、体外受精についての理解を深めていただくことを目的とした患者さん向け体外受精説明会を開催していますが、その際に上のグラフを提示し、刺激方法別の採卵個数、低刺激法、高刺激法のメリットデメリットを必ず強調して説明するようにしています。また、面白いのは、同じ個人の中でも周期によって、卵巣の反応性が微妙に違うことです。ですから、毎周期ごとに卵巣機能の評価を繰り返し、「あなたの今周期の卵巣は結構良さそうだから強い過排卵刺激で行いましょう」とか、「今回は普段より卵巣機能が悪そうだから薬を使わないでいきましょう」などと状態に合わせた調整を行うことが肝要です。日本の不妊治療の現場では、「ウチの刺激方法は××です」というように、施設の方針を前面に打ち立て、その方法に患者さんが合わせていく、という構図が蔓延しているように思います。患者さんは一人ひとり違います。その違いを無視して、治療方法を決めつけられれば、こんなに簡単なことはありません。引き出しは1つでも多い方が良いに決まっています。一人ひとりに合わせた治療方法を試行錯誤のうちに模索していくことでしか、理想の不妊治療には到達できないと思っています。

自然周期採卵法で成功年齢のリミットを3~5歳引き上げる
Nさんは42歳。既に他院で一度体外受精を失敗してしばらく治療をお休みしていましたが数ヵ月経ったところであきらめきれず「最後のチャンス」と思って某クリニックを受診されました。受診時、AMHの値は0.2ng/mlと相当低くなっており、わたしはこれでは刺激に反応しないと判断しました。たまたま排卵時期が近く、その周期の排卵を無駄にしたくなかったので、全く無刺激の自然周期での採卵を行いました。麻酔も使わずに採卵は2分ほどで終了、一個の卵を回収できました。その1個が受精してくれたので、翌々日に移植。その卵が奇麗に着床してくれたのでした。Nさんが初診から卒業まで通院した期間は妊娠初期の経過も含めると2ヵ月。初診時から妊娠判定日までの通院回数は4回のみ。妊娠を告げた時のNさんの狐につつまれたような顔が忘れられません。このように、40歳からの不妊治療では自然周期採卵・低刺激採卵を駆使することによって卵が採れる限界年齢を3~5歳引き上げることができます。体外受精は、大きく分けて2つの方法があります。1つは排卵誘発剤を使って一度にたくさんの卵を採る方法、もう1つはほとんど薬を使わずに自然に排卵してくるたった1つの卵を狙う方法です。漁にたとえれば、ロング法やショート法などの過排卵刺激法は網で根こそぎたくさんの魚(卵)を獲る地引網のような一網打尽の戦略です。でも、この方法は魚(卵)がたくさんいることが前提です。たくさん卵があるからこそたくさん採ってもちゃんと卵巣は回復してくれるわけです。でも、40歳以上の方というのは海に泳ぐ魚が少ない状況です。そのような方に地引網のような方法を使っても全く採れないこともあるし、使うことによって最後に残っている資源を枯渇させてしまう可能性もあります。こうした状況下では、地引網のような方法ではなくて、1本釣りで魚を釣り上げる方が有効の場合もあるでしょう。これが完全自然周期採卵法あるいは低刺激採卵法です。地引網方式でなくても、1本釣りで良い卵が採れることはいくらでもあります。ですから、「一度に、たくさん卵が採れなければやる意味がない」とあきらめてしまうのはあまりにもったいないことかと思います。

自然の方が良い卵子ができる?(刺激方法と成績の関係)
最近の患者さんは大変よく勉強しています。「良い卵子を採りたいので、自然周期でやりたい≒今回、受精卵のグレードが悪かったのは、排卵誘発剤を使ったからだと思う≒卵がたくさん採れるとその分受精率やグレードが悪くなるんですよね?≒卵子がたくさん発育してしまうと、その分個々の卵子への血流が分散されてしまうので、発育が悪くなると聞きました」外来診療では、始終こうした類の質問をいただきます。採卵刺激方法や卵子の獲得数と卵子のグレード、あるいは妊娠率には明確な相関関係はあるのでしょうか? 答えは、否です。某クリニックではこれまでこの問題について何度も検討してきましたが、治療方法別の受精率、分割率、胚盤胞発生率に統計学的な差は一度も認めたことはありません。また、「ロング法、ショート法などでたくさん卵子が採れてしまうと、その分未熟卵の発生率が高くなると聞きます。だから、自然でやりたいのです」という話を聞くこともあります。「未熟卵」というのは採卵時に減数分裂が始まっていないもので、これは受精には使えないので廃棄扱いになる卵子のことです。これについて、獲得卵子数別の未熟卵子出現率を検討しました。すると、1~3個、4~6個、7~9個、10~12個、13個以上の各群で、採卵周期あたりの未熟卵発生率はそれぞれ15、40、53、72、69%と採卵個数が多くなればなるほど、未熟卵発生率が高くなることが分かりました。ここで、注意が必要です。分母を「採卵1回あたり」ではなく、「卵子一個あたり」として計算すると、未熟卵発生率はそれぞれ10、12、13、18、16%となり、これは統計学的検定を行うと確率的には有意な差ではないという結果になったのです。このデータが意味するところをお分かりになるでしょうか? 未熟卵子の出現率自体は方法に関係なく約10%と一定なのです。しかし、ロング法、ショート法などでは、獲得卵数が多くなるため、1回あたりで見ると相当の頻度で未熟卵が含まれてくるというだけの話なのです。発生率10%なら10個採れれば、必ずそのうちの1個は未熟卵、という単純明快な計算です。だから、未熟卵が発生しやすい、というような間違った知識が広がるのです。未熟卵の発生率に限ったことではありません。インターネットで流れている情報には間違ったこともたくさんあるので、注意が必要かと思います。「自然の方が良いに決まっている。自然に採れた卵子こそ、最も良い卵子だ」という話は、一見非常に説得力のあるものですが、卵巣の仕組みはもっともっと複雑です。卵子の質と量(卵子数)は反比例の関係にはありません。卵巣への血流は常に変化しています。一定ではありません。発育卵子数が多くなればそれだけ卵巣への血流が増加して、それぞれにちゃんと栄養が行き渡るようにしてくれます。自然で成功する場合もあれば、過排卵刺激で成功する場合もあります。刺激方法と治療成績には相関関係はありません。もしも唯一無二の方法があるのであれば、世界中で瞬く間に広がっているはずです。それがないから患者さんの側も医療者の惻も、試行錯誤をしているわけです。自然に近ければ近いほど、患者さんの負担は少なくて済みます。ですから、必要がない過度な刺激は厳に控えるべきです。ただし、「フレンドリーIVF」は卵子のグレードを良くするためではありません。あくまで、患者さんの負担軽減が最たる目的であることを理解していただきたいと思います。

 

妊娠の卵巣機能を高める方法

「卵巣機能を高める方法はあるのでしょうか?」「採卵数が少ないのであれば、卵子の質を上げる方法は?」これらは、不妊治療を行われる患者さんから毎日のように聞かれる質問です。しかし、残念ながら「卵巣機能を戻すことは年齢の若返りを図るのと一緒で理論上はなかなか難しいと思います」というふうにお話をさせていただいています。この回答で大半の患者さんは納得されるわけですけれども、現状維持あるいは老化のスピードを遅くすることはもしかしたら可能かもしれません。生活習慣の改善の1つとしては、まず喫煙者には絶対にタバコをやめていただきます。喫煙者と非喫煙者のAMHの値の差になります。グラフからも分かるように、喫煙は不妊リスクを高める最たるものです。もしも喫煙をしていらっしゃる方がいましたら、一刻も早くやめるべきでしょう。受動喫煙(非喫煙者がタバコの煙を吸わされること)も同じことです。「卵巣機能を改善するためのお勧めのサプリメントはないでしょうか?」という質問もよくいただきます。サプリメントに関しては、星の数ほど販売されていますけれども、エビデンス(効果の裏付け)があるものはあまりないようです。その中で、わたしたちは2つのサプリメントをお勧めしています。1つがDHEA、もう1つがプラセンタエキスです。DHEA(成分名こアヒドロエピアンドロステロン)は、副腎・中枢神経・卵巣などから分泌されるホルモン物質です。硫酸と結びついたDHEA‐Sのかたちで体内をめぐり、男性ホルモンや女性ホルモンに変わっていきます。このことから、DHEAは「ホルモンの母」「プロホルモン(前ホルモン)」などと呼ばれることもあります。25歳頃をピークにDHEAの産生は低下し、同時に血中のDHEA‐Sレベルも低下します。それと平行して男性ホルモンや女性ホルモンのレベルも低下し、男性も女性も性機能をはじめとした全身の機能が衰えていきます。そのためDHEAを補充すれば若さを保つことができるのではないか、と考えられています。米国ではDHEAはサプリメントとして市販され、アンチエイジング(老化防止)効果を期待する人々が服用しています。2000年頃から、DHEAが卵巣機能を高めるという研究報告が出始めました。40歳前後の方がDHEAを服用すると卵巣機能が高まり、良い卵胞が得られるようです。DHEAの効能については、これまでさまざまな報告がされていますが、代表的な研究論文に次のようなものがあります。●43歳の不妊治療患者にDHEA(75mg)を9ヵ月服用させたところ、4ヵ月を過ぎるとともに採取できる卵胞の数が著しく増え、エストラジオール(女性ホルモンの1つ)濃度が上昇した。●卵巣機能の衰えた平均年齢40歳の25人の女性がDHEA(75mg)を4ヵ月服用し、その前後で体外受精を受けた。DHEA服用グループに有意に多くの卵胞が認められ、より多い受精卵が得られた。●卵巣機能の衰えた平均年齢42歳の89例の女性がDHEA(75mg)を4ヵ月服用した。対照グループに比べ、卵胞の数は有意に少なかったが、妊娠は有意に多かった。●40歳以上の不妊症患者および体外受精の反復不成功症例にDHEA(50~75mg/日)を2~3ヵ月間投与し、体外受精を行ったところ、採卵数や受精卵に質的改善が見られ、60例中15例が妊娠した。DHEAは日本では厚生労働省の認可が下りていませんので、手に入れたい場合には個人輸入するなどのかたちになります。なお、DHEAには副作用として、ニキビや皮脂腺の分泌亢進(病勢が進むこと)などが報告されています。これはDHEAが体内で男性ホルモンに変換されて男性ホルモン濃度が高くなることが原因と思われます。わたしの経験ではDHEAでニキビなどの肌のトラブルを訴える方が1割弱いるように思います。こうした場合には、摂取用量を少し減らすように指示すると大抵の場合で症状は消失します。あともう1つ、わたしが患者さんに推奨しているのがプラセンタ(成分名)療法です。アンチエイジングに効果があるといわれるプラセンタは、胎児の成長に必要不可欠な胎盤抽出液を用いたサプリメントです。もともとは肝臓機能低下の治療薬として使われていた薬剤ですが、その際、患者さんの肌が美しくなった、などの報告を受け、美容皮膚科治療の1つとして取り入れられるようになりました。その後も更年期障害や疲労回復など、いろいろな効果があることが明らかになってきているようです。某クリニックでも、患者さんからの要望を受けるかたちでプラセンタ療法を導入しています。プラセンタは、保険適用外の治療(1回2000円)です。最近、不妊関連学会でプラセンタ療法による卵巣機能改善の発表を散見するようになってきています。複数の病院で、相当回数の体外受精を試みても妊娠せず、某クリニックを受診し、本人の希望でプラセンタ注射を始めたところ、1回目の体外受精で妊娠した、という事例もあります。この例でプラセンタが妊娠に効果があると結論づけることはできませんが、今後も慎重に検討し、また新たな知見が得られたら公表させていただきます。プラセンタはわたしも日々使っていて、少なくともアンチエイジングには効果があると自分自身実感することができるサプリメントです。しかし、あくまでサプリメントはサプリメントです。わたしは患者さんが選ばれるものを否定するようなことはしていませんけれども、世の中には高価なものや健康被害を受けてしまうサプリメントもありますので、エビデンスのないサプリメントにはあまりのめりこまない方がいいでしょうというアドバイスは差し上げています。禁煙、サプリメント以外で何かできることはありませんか? というご質問を患者さんからいただきますけれども、わたしは「これがいいでしょう」というようなことはあえて積極的に言わないようにしています。できる限り好きなこと、楽しいことだけをして、あまり考えすぎずに、普段どおりの自然体でいられるのが一番大事なのではないでしょうか、というアドバイスを差し上げています。「卵子の質を高める」にはどうすればよいのか、とのご相談も受けますが卵巣の機能と卵子の質は一緒ですし、卵子の質はイコール量です。何度か言及しましたが、過排卵刺激法を使って卵子をいっぱい採ると卵子のグレードが悪くなるから1~2個しか採らない方がグレードが良くなる、というのは大きな誤解です。「自然に採れた卵子の方が少数精鋭で質が良い、人工的に排卵誘発剤を使ってたくさん採れた卵子は質が悪い」というのは分かりやすい理論ですけれども卵巣や卵子はそんなに単純なものではありません。たくさん採れても質の良い卵子が得られる場合と、1~2個でも卵子の質が悪い時は悪いので単純な理論は成り立ちません。排卵誘発剤を使用するか、しないかによって卵子の質が変わってくるということにもわたしは否定的です。排卵誘発剤を使って良い時もあるし、悪い時もあります。一律に「排卵誘発剤はいけない」という理論もどうかと思いますし、「排卵誘発剤こそ一番」という決めつけもできません。インターネットを通じて情報は暴走します。これがいい、あれがいい、これがいけない、あれがいけない、という情報に流されないようにすることも大切なことと思います。

不妊治療のやめ時について

某クリニックで不妊治療をしている方の約半数が40代です。皆さん頑張っています。わたし自身も頭が下がる思いです。「わたしはいつまで続けられるでしょうか?≒先生、ダメならダメとはっきり言ってくださいね≒そろそろ治療をやめるべきなのでしょうか?」など患者さんから出てくる質問には共通のものがあります。わたしは、「弱気になることはありません。可能性はまだまだあります。もっと頑張りましょう!」と励ますことは控えるように心がけています。その代わりに、「つらいなら、いつでもやめていいのですよ」と言うようにしています。どのように患者さんにアドバイスするかは、いつも本当に悩みます。自分の考え方が不妊専門医として本当に正しいのかどうか、と自問自答する日々です。しかし、不妊治療を続けるかどうかはわたしたち医療者が囗を挟むべき問題ではない、と思うのです。「やめたい」と思った時がその患者さんの治療のやめ時なのだと思います。妊娠だけが夫婦の人生のすべてでは決してないはずです。費用の問題もばかになりません。わたしたちにとっては妊娠させて初めて責任を果たせるわけですから、1回目の治療が失敗すれば「次こそは」と思います。何度も失敗している方がいれば、「何としてでも妊娠させてあげたい」という闘志が湧いてきます。ですから、本心では、「もう少し頑張ってもらえたらな……」「可能性はまだまだあるはずなのにな……・」と思う気持ちも常にあります。そして、その患者さんが不妊治療の終了あるいは無期延期を最終的に選択された時には、その決断を尊重しながらも悔しさと無力感と、そして多少の罪悪感が漂うものです。不妊治療を長く続けている間には『もうやめた方がいいのか』と悩んだり、「治療を続けたらもしかして卵が採れるかもしれない』というふうに思ったりするのは人間の常です。不妊治療は、ゴールの見えないマラソンのようなものです。あと、ほんの少し走ればゴールが突如現れるかもしれないし、5年10年走り続けてもゴールできないかもしれないのです。先が見えないからみんなつらいのです。そうした状況で気持ちを強く持つことは至難の業かと思います。患者さんの治療の成功率を数字で予測することは、実は理論上はそれほど難しいことではありません。年齢、AMH値、精子所見などの検査データを統計学に分析するのです。膨大な過去のデータを基に、さまざまな条件の患者さんの妊娠率の予測値(期待値)を出すことができます。実際、そのような試みは著名な不妊専門雑誌を見ていると時々散見されます。しかし、数字の判断には注意が必要です。予測妊娠率がたとえ1%でも100人に1人は妊娠するわけです。逆に90%でも100人中柚一人は妊娠できないわけです。40代の方々は妊娠できる可能性は決して高くないことは患者さん自身が痛い程理解されています。その上で治療を続けているのです。可能性としての数字は何も意味を持たないのです。生理が始まって、その周期の排卵で妊娠できる可能性が50%なのか、10%なのか、その違いまでは残念ながら分かりません。分かったところで意味がありません。なぜならたとえ可能性が1%であっても患者さんが希望すれば、治療を進めるからです。しかし、ほぼO%に近いかどうかは大体評価可能です。いろいろなケースがありますが、たとえば月経初期の血中FSH値が25mⅢ/㎡を超えている場合にはまず奇麗な排卵が期待できません。このような時は、どんなに患者さんが採卵したいと考えていらっしゃっていても「今周期はキャンセルして次の周期に期待しましょう」と卵巣を休ませるようにしています。45歳くらいになってくると、「次の周期に」が何カ月も続く方がいらっしゃいます。そうなれば、気持ちも折れてしまいがちです。口に出さなくても患者さんの表情を見ていれば大体分かります。そのような時は「しばらく休みたいと思われるならいつでも予約をキャンセルしてくださいね」と軽いノリで伝えるようにしています。逃げ道をつくってあげた方がよいのです。ただ、その一方で、もうほとんど閉経状態で半年間採卵キャンセルが続き、もうダメかも……と思っていた方が1年ぶりに奇麗な卵が採れるということを経験することもあります。人間の体は、不思議です。

不妊治療の基礎知識

不妊治療を始める前の検査
ここで改めて、初診時からの不妊治療の流れについて、ご説明します。不妊治療は、通常、女性男性両方の不妊原因を調べる検査から始めます。そして、検査の結果を参考にしながら、治療方針を決めていくことになります。焦る気持ちがあるかもしれませんが、勇気を出して不妊治療病院に来てくださったのですから、まずはしっかり検査をしてみましょう。検査は、月経周期の時期によって進めていきます。すべて終了するまでに、最短で1ヵ月程かかります。ご都合で適した時期に検査がで
きなくとも、次の周期にチャレンジすれば大丈夫です。不妊症の検査は、不妊原因を調べるための検査で、あなたを「不妊症」と診断するための検査ではありません。検査項目は病院ごとに多少の違いはありますが、大体同じと思ってよいでしょう。すべての方にすべての検査を行うわけではありません。40代の方ですぐに治療に入りたい、という方に1ヵ月2ヵ月と検査だけに時間をとられることは無意味ですので、そうし
た場合には最低限の検査だけ行っておいて早めに治療に入る、ということもよく行うことです。

以下に、不妊専門病院で行うすべての検査とその流れを列挙します。
▼女性側の検査
【①不妊初診検査・②感染症・血液型検査】
①は月経中のホルモンの基礎値をみる検査、②は性感染症の代表的な病原体の有無を調
べる検査です。すべての基本となる検査です。
通常、月経3~7日目の時期に採血をします。
【③子宮内腔培養検査】
月経血の中に、着床の支障になるような雑菌の繁殖がないかどうかを検査します。
雑菌が認められた場合には、抗生物質の投与を行います。
【④子宮卵管造影(HSG)」
卵子と精子は卵管内で受精しますので、卵管の通過性は自然妊娠には必須の条件です。
子宮卵管造影は不妊検査の中で、唯一レントゲン装置を必要とする検査です。卵管の通過性と子宮の形態をみる検査です。月経終了後から月経10日目以内の時期に行います。子宮の中に、風船がついた管を入れます。その風船を栓にして子宮の出口を塞ぎ、造影剤(X線の透視撮影の際、臓器などの明確な像を得るために用いる薬品)を子宮の中に流します。レントゲン透視下に、造影剤が卵管から流れてくることを確認します。検査の所用時間は5分程ですが、この検査は痛みを伴います。痛みの感じ方は人それぞれですが、某クリニックでは、「どうしても怖い」という方には麻酔下に行うようにしています。
【⑤子宮鏡検査(HFS)」
子宮の中に細いカメラを挿入し、受精した卵の着床の場に子宮内膜ポリープ(子宮内腔より発生するポリープ)や子宮筋腫(子宮にできる良性の腫瘍)がないかどうかを調べることができます。通常は、麻酔もなしに数分で終わります。ただ、子宮鏡検査には医師の側にも相当な熟練と経験が必要とされます。また、特殊な大掛かりな内視鏡設備が必要です。そのため、通常の不妊クリニックではあまり行われていないのが現状です。しかし、超音波検査では分からない微小なポリープが発見されることも多いので、某クリニックでは、すべての患者さんに必ず行っています。
【⑥頸管粘液検査】
排卵前には、エストラジオールというホルモンが分泌されます。そのホルモンに顕管という子宮の出口が反応して粘液を産出し、精子を受け入れやすくします。その粘液の性状や量を検査します。
【⑦性交後試験(フーナーテスト、ヒューナーテスト)】
排卵時期にタイミング(性交渉)をとってもらった後、頚管粘液の中に精子がどのくらい動いているかを顕微鏡で検査します。タイミングをとった夜の翌朝、またはタイミングをとった日に検査をします。
【⑧排卵確認】
超音波検査で見えていた卵胞が破れていることを確認します。その他は、基礎体温、子宮の出口の状態、採血などで確認できます。
「⑩がん検診」
不妊治療とは直接関係はないのですが、某クリニックでは1年に1度のがん検診を必ず行うようにしています。子宮頚がん検診と子宮体がん検診、乳がん検診を受けていただきます(子宮体がん検診は35歳未満の方には省略しています)。
【⑩LHIRHテスト】
月経が不順の方に行う検査です。月経が不順になる原因、つまり排卵障害の原因検索と、その後の排卵誘発剤選択を判断するために有用な検査です。ホルモン剤を注射して、その後の血中のホルモン値の変動を調べます。すべての方に行うわけではなく、月経不順がある場合に限って行う検査です。
【⑩75gOGTTテスト】
もともとは糖尿病の検査で昔から行われている検査です。糖分を摂取してもらい、その後の血糖値および血中インスリン(ホルモン)値の変動を調べます。すべての方に行うわけではなく、月経不順がある場合に限って行う検査です。
▼男性側の検査
「①精液検査」
精液量、1㎡中の精子濃度、運動率、正常形態率を調べます。3~4日間ほど禁欲(射精をしない)後、ご自分で採精容器に用手的(マスターベーション)にて採っていただきます。
【②血液検査(感染症・血液型)】
感染症(B型肝炎ヽC型肝炎、梅毒、HIV、クラミジア)、血液型の検査を行います。

保険では行うことができない検査もありますが、高価な検査はそれほどないので大きな負担になることはないかと思います。某クリニックでは、これまで治療歴がある方や紹介状を持参されている方には、重複する検査は省略するために、これまで受けた治療歴の詳細を必ず確認するようにしています(ただし、夫妻の感染症検査、AMH検査、精液検査だけは必ず再検査するようにしています)。また、治療方針が最初から決まっている場合には、その治療に不必要な検査も省略します。たとえば、40代の方で、なるべく早めに体外受精に進むことを決めているような場合には、卵管造影検査は省略します。体外受精とは卵管を経由しない妊娠なので、わざわざ痛い思いをする必要はないからです。

妊娠・体外受精の歴史

日本産科婦人科学会の2006年の報告によると、2005年までに体外受精で生まれた日本国内での出生数は累計で11万7589人となっています。2003年の体外受精による出生児数は、1万7400大でした。この年の全出生数(112万3610人)に占める割合は1、5%となり、65人の赤ちゃんのうち1人が体外受精児になる計算になります。最近の報道ではこの割合はさらに増え、2012年現在、40人に1人が体外受精由来で生まれていると報告されています。

体外受精の治療の流れ不妊治療の戦略を考える上で40歳以上の場合は前述のとおり、最初から体外受精を受けるよう勧めることも少なくありません。では、体外受精は実際どのような手順で行われるのでしょうか。体外受精の治療の流れについて、ここでもう一度具体的にご説明いたします。

①排卵誘発
月経開始から、排卵までは12~14日間程度です。この間、卵数を増やすために過排卵刺激を選択する場合には排卵誘発剤を用います。あるいは完全自然周期で行う場合には、一切薬剤は使用しません。排卵誘発剤にはいろいろな種類があり、その使い方により、ロング法、ショート法、アンタゴニスト法、クロミッド法などに呼び方が分類されます。

②採卵(卵巣から卵子をとりだす)
卵子がちょうど排卵する直前のタイミングに合わせて、卵子を回収することを採卵と呼びます。採卵は、超音波モニターを見ながら膣から卵巣に向かって細い針を刺して卵胞の中にある卵子を吸引します。採卵にかかる所要時間は、5~20分程度です。某クリニックでは、非常に細い針を使うので麻酔なしでも採卵は十分に可能です。ただし、希望される患者さんには静脈麻酔を用いて寝ている間に採卵を行います。麻酔使用の有無は患者さんに選択していただいています。通常、予定採卵時間の34~36時間前に排卵を誘起するための処置が必要です。誘起には、hCGと呼ばれる注射か、GnRHアゴニストと呼ばれるスプレータイプの点鼻薬を使用します。

③採精
排卵日に合わせて、病院や自宅で精液を採取します。病院で採取するか、自宅で採取して病院に持って行くかはどちらでもかまいません。採精後洗浄等の処理を行い、運動良好精子を回収します。精液の状態や、過去の受精成績によって顕微授精を行う場合もあります。

④受精・培養
採取した卵子と精子を培養液の中に入れ、培養器の中に18時間程度静置しておくと精子が自然に卵子内に進入し、受精が成立します(一般的な受精率は60~80%といわれます)。この受精卵をさらに数日間、温度・湿度・pH(酸性・中性・アルカリ性を表すのに用いる単位)などの厳密な条件を設定した培養器の中で保存しておくと受精卵が自然に分裂していきます。

⑤胚移植
胚移植とは、体外受精で行われた受精卵を子宮に戻すことです。採卵後2~5日目に行います。胚(受精した卵が発育したもの)を細いチューブに入れて(ローディングと呼びます)、子宮内へそっと静置するように注入します。胚移植の仕方は、病院によってやり方に違いがあるようです。某クリニックでは、膣からの超音波ガイド下で移植する瞬間まで卵の位置を必ず確認しながら移植を行います。移植後は院内のリカバリールーム(採卵、移植後の安静室)で30~60分程安静にしていただき、帰宅となります。受精した卵をその周期のうちに移植することを「新鮮胚移植」と呼び、一度凍結した受精卵を移植することを「凍結融解胚移植」と呼びます。排卵誘発剤を使用すると、子宮の環境が一時的に着床に適さない状態になることがあります(卵巣と子宮が同期していない、などという表現で患者さんに説明するようにしています)。こうした場合には、受精卵をあえて移植しないで凍結しておき、次周期以降、子宮の状態が良い時を狙って移植する場合もあります。移植する胚の個数は以前は普通に3個以上の移植も行われていましたが、現在、日本では日本産科婦人科学会の見解どおり、2個までとされています。某クリニックでも①多胎妊娠予防②移植回数を多くすることで妊娠率の向上を図る1の観点から単一胚移植(移植数を1個に限定すること)を推奨しています。現状では、90%以上の方が単一胚移植となっています。

【胚の凍結保存】
受精した胚は、液体窒素を用いて凍結保存することが可能です。従来のプログラムフリーザー(凍結装置)を用いた緩慢凍結法では、凍結する際に、細胞内の水分が氷晶化して、細胞を傷害することが大きな問題でしたが、「ガラス化法」と呼ばれる急速凍結法が普及し、凍結保存の成績が相当改善されました。受精卵は凍結などの手を加えずにそのまま移植をした方が有利なように思えますが、必ずしもそうではないのです。なぜなら移植の受け手(子宮内膜)が採卵刺激によって、悪い方向へ変化を起こしている場合があるからです。そのため、現在の日本では受精卵を一度凍結保存しておいて子宮の状態が良くなった段階で移植した妊娠の方が多くなっています。某クリニックでも、新鮮胚移植で妊娠する方と凍結胚で妊娠する方の割合は113くらいになっています。凍結した胚は、液体窒素のタンクの中で厳重に管理され、半永久的に保存可能です。某クリニックでは1年ごとに凍結の延長の意思をご夫妻に手紙で確認するようにしています。受精卵の凍結には、以前は2~3日目の4~8分割での凍結が主流でしたが、最近は5~6日間培養器の中で受精卵を培養し、胚盤胞まで発育した胚のみを凍結する場合が多くなっています。胚盤胞まで達した胚は初期胚に比べて明らかに着床率が向上します。ただし、培養期間が長くなる分、徹底した培養環境の保持が必要とされます。某クリニックでも、凍結胚の90%以上は胚盤胞凍結です。ただし、何度胚盤胞凍結を試みてもうまくいかない方などはあえて初期胚凍結を行う場合もあります。

 

⑥黄体ホルモン補充
体外受精では、黄体機能が不安定になる場合があるため、黄体ホルモンの補充をします。注射や内服薬、坐薬などの方法があります。

⑦妊娠判定
排卵日から12~14日目に、採血で妊娠判定をします。

妊娠できなかった人にも光を

体外受精は精子と卵子を確実に出会わせることができるため、妊娠の確率を大きく向上させます。一般に人工授精の妊娠率は7~9%、体外受精が20~30%といわれています。某クリニックの体外受精の累積妊娠率データからは、移植まで行けた方の約70%は妊娠していることが分かります。また、妊娠の80%近くは移植5回目以内で妊娠しています。手前みそですが、相当な確率で妊娠できていることが分かります。ただし、この数字が物語るものは、裏を返せば、10人のうち、2~3人は妊娠できない、という非情な現実なのです。当たり前のことですが、すべての患者さんが妊娠できるわけではありません。妊娠できた方は、「ここまで頑張って本当によかった!」と喜ぶに違いありません。「先生のおかげです。本当にありがとうございます!」と号泣する患者さんの涙に、思わずわたし自身がもらい泣きしてしまいそうになることも多々あります。不妊治療では、苦労に苦労を重ねた上での成功談に光が当たりがちです。本やインターネットで紹介されるのもそうした類のものばかりです。しかし、その陰で何年かかっても妊娠できない人、治療が不成功に終わる人も存在するのです。妊娠した人が「あきらめずによかった」と思うのは当然です。では、妊娠できなかった人にとってみれば、逆に不妊治療そのものが「早々とあきらめておくべきだった」ものなのでしょうか? 違うはずです。「妊娠したい」という気持ちは夫婦の純粋な愛情あってこそのものです。たとえ失敗に終わったとしても、二人が歩んだ治療の道程は何にも替え難い財産になるべきものではないかと思うのです。わたしたちの最も大きな使命は、「妊娠させること」です。しかし同時に、失敗しても「治療をしてよかった」と患者さんが思えるような環境を提供することもとても大事なことです。わたしたちは、そうした目線を常に忘れないよう心がけています。

不妊治療の費用・助成金について

不妊治療の医療費には、2つの種類があります。1つは「保険診療」、もう1つは健康保険がかかわっていない「自費診療」(保険適用外)です。保険診療の場合、患者さんの自己負担は医療費の30%以下となります。検査は、ほとんどの項目に健康保険が適用されます。治療は、タイミング療法、排卵誘発などの治療法には保険が適用されます。腹腔鏡手術などの外科手術も、ほぼ全例で保険適用となります。この場合、医療費自体は高額でも高額療養費制度の対象となりますので1ヵ月の自己負担医療費が9万円(程度)を超えることはありません(加入している保険組合や年収によって変わってきます)。一方、人工授精(費用の目安一約1万5000円)、体外受精(約20~50万円)などには保険は適用されません。自由診療は各医療機関が自由に料金を設定しているので、費用は病院によって差があります。たとえば、某クリニックでは、体外受精に関しては成功報酬制を導入しています。基本料金を設定していますが、採卵個数、そのうちの受精卵個数、凍結個数によって、金額が変わってきます。ちょうど、タクシーの料金制度にたとえると分かりやすいかもしれません。卵が回収できないと2万円程度の基本料金だけで済みます。一方、卵がたくさん回収できて、受精率が良くなればその分費用は高くなります。顕微授精をするかしないか、凍結胚ができたかどうかなどでも変わってくるので一概には言えませんが、大まかな目安で採卵できた卵の個数が1~3個だと10820万円くらい、3~5個だと20~30万円くらい、それ以上だと30~45万円くらいかかります。体外受精などの高度な不妊治療は保険適用外のため、不妊に悩むカップルの経済的負担は大きく、医療保険の適用を検討すべきという政治的な動きもありますが厳しい医療費財政の現状では保険適用の対象となることは困難であると考えられています。そこで、これらの治療を受けるカップルの経済的負担を軽減するため、体外受精などの不妊治療については厚生労働省が「特定不妊治療費助成事業」を実施し、体外受精などの費用の一部を助成しています。厚生労働省は2004年度に設けた助成制度の支給件数は2010年度までの7年間で5倍以上に増えた、としています。現在、すべての都道府県・指定都市・中核市において特定不妊治療費助成事業を実施しています(このほか、自治体独自に助成を行っている都道府県・市町村もあります)。助成金制度は、条件に合えば給付を受けることが可能です。申請方法や必要書類など、詳しくはお住まいの自治体へお問い合わせください。また、厚生労働省は少子化対策の一環として全国に不妊に関する相談を受ける「不妊専門相談センター」を開設しています。2005年(平成17年)度に、全国の不妊専門相談センターに寄せられた相談は1万7756件です。このうち、「その他」に分類される相談としては助成金に関する情報を求めるものが多く寄せられているとのことです。各センターでは産婦人科医師・助産師・カウンセラー等の相談員が電話、メール等で不妊症に関する疑問から治療費用、助成制度まで幅広く相談に対応しています。相談はすべて無料です。

特定不妊治療費助成事業の概要
●対象治療法
体外受精及び顕微授精(以下「特定不妊治療」といいます)
●助成の対象者
特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか又は極めて少ないと医師に診断された法律上の婚姻をしている夫婦
●給付の内容
1年度あたり1回15万円、2回までとし、通算5年支給
●所得制限額
730万円(夫婦合算の所得ペース)
●指定医療施設
事業実施主体において医療機関を指定
●事業実施主体
都道府県、指定都市、中核市(厚生労働省は、都道府県、指定都市、中核市に事業の費用を補助しています)

不妊治療のケーススタディ

ケース1自然妊娠
Bさんはその当時41歳、ご主人は50歳でした。どこの病院でも、不妊治療をしたことがないお二人でした。初診の際、卵巣年齢を測定してみたらAMH値は0.3ng/ml。大体年齢相応と判断されました。年齢も年齢ですし、時問的にあまり余裕がありませんので、すべての検査→マニュアルどおりのステップアップ法という選択では時間がもどかしいと感じました。そこで、最低限の検査だけをして、なるべく早めに体外受精に進みましょう、とお話をしました。でも、なかなかわたしの話に乗ってくれません。ご主人を含めて何回かお話をしましたが、奥様の方は体外受精に進む気が相当あるのですが、とにかく旦那さんの方が、年齢的な切迫感のようなものも全くなく、「体外受精はまだまだ早いと思う。まずはタイミング療法から始めてみたいのです」と言います。わたしは「それでは時期を逸する可能性があります。やるなら今しかないと思いますよ」と何度かお話ししましたが、「とにかく自然にこだわりたい、自分たちが納得した治療を選択したい」とのことでした。現状を正しく理解していただいた上での結論でしたから、わたしの方も納得して「それでは数カ月タイミング療法を行ってみましょう。その後のことはまた考えていきましょうね」ということで、タイミング療法、すなわちステップアップ法の最初の段階から始めてみました。すると、驚くことに2回目のタイミング療法であっさり妊娠が成立したのでした。これはあくまで結果論ですが、Bさんご夫妻には体外受精は必要なかった、ということになります。つまり、わたしのアドバイスが間違っていたことになります。Bさんのような例は時々経験します。そのたびに、治療方針を決める際には、一方的な決めつけではなく、相談をしながら、というスタンスの大切さを痛感します。

ケース2地道な努力
Cさんは過去に2つのクリニックで何度も体外受精を受け、一度も妊娠に至らなかった方でした。Cさんが某クリニックを受診した時は45歳。不妊治療について驚くほど熱心に勉強している人でした。鋭いツッコミにわたしの方がたじたじになることもしばしばでした。子宮よりも卵巣の方が早く老化していくことなどもよく分かっていらっしゃっていて、最初の来院の際から「わたしは凍結卵が5個できるまで採卵を続けたい」という希望を明確におっしゃっていました。初診時のAMHの値は0.67ng/mlでした。地道な闘いが始まりました。微妙に変化するFSH値などを指標に毎周期採卵を試みました。1回の採卵で採れる卵の個数は採れて2個でした。回収できないこともありました。また卵が回収できてそれが受精しても、なかなか胚盤胞まで発育せず廃棄になってばかりいました。40歳を過ぎると受精率や胚盤胞到達率も下かってくるのです。当然と言えば当然でした。Cさんは忍耐強く通院を続けました。それでも、3、4回に1回くらいは奇麗な胚盤胞ができて凍結ができました。そういう時は、わたしたちも本当に嬉しいものです。その間、卵巣機能が低下して、カウフマン療法をしながら次に賭ける、という周期もありました。約2年半、採卵を繰り返しました。気がつけば採卵回数は合計15回。しかし、その結果、ご本人の目標どおり、胚盤胞での凍結胚が5個できたのでした。来月からCさんは胚移植を始める予定です。現在、Cさんの年齢は47歳。おそらく今後Cさんが採卵できるチャンスはないでしょう。わたしに与えられた移植のチャンスは最大で5回。やれるだけのことをやるだけです。そして、神様が振り向いてくれることを!

ケース3早発閉経
悪い結果のパターンですが、ターナー症候群の患者さんのケースについてお話しいたします。Dさんは、33歳で他院にて体外受精治療を受けていらっしゃっていました。ロング法・ショート法と、過排卵刺激法を何度かトライされましたが全く卵胞が発育せず、「あなたはもう不妊治療をやめたほうがいい」と言われ、病院から見放されたような気持ちで当院にいらっしゃった患者さんです。AMH値を測定すると、0.1ng/ml以下で予想していたとおり、測定不能でした。超音波検査でも卵巣は萎縮気味でほとんど同定(明らかにすること)不可能です。典型的な早発閉経の状態でした。早発閉経の原因は不明な場合も多いのですが、同定できる場合もあります。患者さんのリンパ球を用いた染色体異常を調べてみました。するとターナー症候群であることが分かり、これが早発閉経の原因であることが判明しました。ターナー症候群の方の不妊治療は非常に厳しいものがあります。しかし、まれに排卵してくる方もいらっしゃいます。「染色体異常は治るものではありません。しかし負担にならない程度に頑張っていきましょう」とお伝えし、患者さんと一緒に歩みながらの治療が始まりました。遠方にお住まいにもかかわらず、Dさんは往復3時間程の距離をよく頑張って通院されました。ターナー症候群に限らず早発閉経の患者さんは排卵すら起こらない状態です。排卵がなければ治療の選択肢を検討する余地すらありません。Dさんにもカウフマン療法、DHEA、プラセンタ……などありとあらゆる手段を使う試行錯誤の毎日でした。毎周期生理が来るたびに卵巣の機能を調べてみるのですが、残念ながらほとんど閉経に近い状態です。あの手この手を尽くしながら、自然に卵胞が発育するのを地道にモニターしていました。治療開始から半年程経った時です。超音波検査をしながら「今周期もまたダメか……」と嘆息しそうになった時です。左の卵巣に2m弱の奇麗な卵胞が発育していたのです。その2日後、採卵を行いました。空胞であることも危惧されましたが、成熟卵が採れました。そして、顕微授精(精子の所見は良かったのですが、次がいつあるのか分からなかったので顕微授精を選択しました)を行い、無事受精しました。そして2日後に胚移植。これで妊娠反応が陽性となったのです! この時は興奮しました。しかし……喜んだのもつかの間。1週間後の検査で妊娠ホルモン値が下がってしまい、「化学的流産」(注2)と診断されました。今もDさんは、治療を続けていらっしやいます。この化学的流産後、約1年が経ちますが、その後一度も排卵は起こっていません。今回の流産例をご紹介させていただくことに対して周囲からは反対する意見も少なくありませんでしたが、あえて紹介させていただきました。その理由は、不妊治療はよいことばかりではないということを分かっていただきたかったことと、流産という結果に終わったとしても、この話に勇気づけられる患者さんは多いのではないかと思ったからです。今後、いつ排卵がやってくるか、いつまで続けるのかは全く不透明なままです。しかし、Dさんは以前にも増して前向きに取り組んでおられます。「妊娠できなければやった意味がない。流産してしまったら、すべてが水の泡だ」という考えは違うと思うのです。Dさんは流産を経験しましたが、妊娠できたという事実は生涯消えることのない喜びなのではないでしょうか。時々Dさんが言います。「流産とはなってしまったけれども、あの1週間は本当に幸せでした」と。この言葉にすべてが凝集されているような気がします。

(注2)化学的流産
受精卵が子宮内謨に着床したかしないかという、ごく早い段階での流産のこと。妊娠検査では妊娠と判明しても、超音波検査で子宮内に胎嚢が確認されないままいつもの生理のように血液と一緒に受精卵が体外に排出されてしまいます。自党症状はほとんどなく、採血や尿検査など「化学的検査」でしか分からないことから、こう呼ばれます。

ケース4妊娠を希望するということ
48歳になるEさんが、不妊治療を希望されて当院に来院されました。「いろいろなところで治療を断られてしまったけれども、どうしてもあきらめきれない」と切実に訴えておられました。当然のことながら、AMHは0.1ng/mlと検出感度以下。妊娠できる可能性は極めて乏しいと思われましたが、本人は非常に意欲的です。いろいろとお話しさせていただいた上で、自然周期採卵法で体外受精を行うことになりました。成熟卵子(受精する能力を持った卵子)を1個だけ採卵することができました。さらにその卵子が奇麗に受精したのです。そして、2日後、胚移植を行いました。移植胚のグレードも非常に良く、移植した際の子宮内膜も十分に厚くなっていました。わたしは「ひょっとしたらひょっとするかも」と期待を膨らませました。おそらく培養室の職員も同じような思いだったでしょう。しかし、残念ながら妊娠反応は陰性のままでした。その妊娠判定日、「ダメでした」と治療の失敗を告げた時のことです。彼女がにっこりと笑って、「これで、納得できました。この2ヵ月間、本当に楽しかったです。ありがとうございました」とおっしゃったのです。そして、大変晴れやかな笑顔で帰って行かれました。「期待に沿えなかった」という悔しい気持ちしかなかったわたしにはEさんの言葉が大変奇異な感じに響き、しばらくぽかんとあっけにとられていました。 それ以来、自分の外来診療のスタンスが多少変わったように思います。不妊治療は『苦しむものではなく、楽しむべきこと』のはずなのです。結果がすべてではないのです。過程の方が大事なのではないでしょうか? 患者さんは期待と希望に胸を膨らませて妊娠の瞬間を待っているのです。この夢を実現させるためのサポートをするのがわたしたちの使命です。そして、そのサポートの対象は、結果だけではなく、過程にも向けられるべきなのだと思います。今、わたしの手元には25枚の年末ジャンボ宝くじの券が散らばっています。あと数日で当選発表です。今、ちょっと楽しいです。ほんのちょっとわくわくしています。毎年、家族で当選番号をチェックしています。その時が一番楽しいです。でもチェックが終わると拍子抜けです。あまりにたとえがかけ離れているかもしれません。でもどこか不妊治療と少し似ているような気もするのです。時間とお金と手間をかけての治療です。だったら、楽しまなければ損だと思いませんか?Eさんのように感じていただける人が増えるよう、これからも努力したいと思います。

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妊娠検査とリスク

高齢出産とは?
当院でも、たまに「わたしは「マル高」ですか?・」と聞いてくる患者さんがいらっしゃいます。日本ではかつて母子手帳に30歳以上、後に35歳以上の妊婦に高齢出産を示す「マル高」の印が押されていましたが、差別になるということで今は廃止されています。では、現在、高齢出産(高年出産)とは具体的にどのように定義されているのでしょうか。日本産科婦人科学会においては、「35歳以上の初産婦を高年初産婦」と定義づけています。一方、WHO(世界保健機関)では「初産でも二人目にかかわらず、40歳以上の妊婦」と定義しています。今でも、「マル高だから……」と自分で勝手にネガティブなレッテルを貼る方がいらっしゃいますが、高齢出産という年齢を必要以上に悪い方に考える必要は全くありません。今は不妊治療を代表とする生殖医療技術も進歩しているので、高齢出産と言われてもあまり気にしない方がよいと思います。

出生前診断について
女性の年齢と染色体異常の発生頻度は、明確な相関関係があります。これは一般的にもよく知られている事実でしょう。そのため、40代で妊娠された方は、妊娠中に胎児の染色体や遺伝子を調べる「出生前診断」を受けるかどうかで悩むことが多いようです。人間の染色体は23本が2対、合計で46本から成り立っており、1~22番と性染色体X、Yとして呼び方が決まっています。受精卵を調べてみると、最も染色体異常が多いのは16番の染色体であることが分かっています。しかし、「16番の染色体異常」として生まれてくる子はいません。なぜなら、こうした異常卵は途中で必ず分割が止まってしまうからです。他のほとんどの染色体も同様です。生命の発生のプログラムはうまくできているのです。ごく例外的に異常があっても発育してしまう染色体異常があります。それは13番、18番、21番、X、Y染色体のみです。その中で、圧倒的に頻度が高いのがダウン症です。ですから、単純に考えるのであれば「出生前染色体検査」=「ダウン症の検査」と見なしてよいでしょう。染色体異常を検査する代表的な出生前診断の方法としては、超音波検介,トリプルマーカー検査す羊水検査,絨毛検査-などがあります。これらの出生前診断は義務ではなく、あくまでも妊婦さん側の意向で行われます。

超音波検査
胎児異常のスクリーニング(人勢の中から病気の疑いのある人を探し出す検査)に用いられる検介で、最も一般的な検査です。超音波検査は、超音波で胎児の形態を調べることによって、妊娠22週前にダウン症であるかどうかを予測するという方法です。ダウン症の胎児は妊娠10~14週頃に首の後ろにむくみ(後頸部肥厚、Nuchal Translucency:NT)、鼻骨の欠損などの徴候が現れる場合があることが知られています。これらをチェックすることが染色体検査の第一歩です。鼻骨欠損は超音波機器の精度や胎児の向きによって見えなかったりすることが多々ありますが、後頭部肥厚については、比較的容易に分かります。ただ、肥厚の有無はあくまでダウン症の可能性の高低を示唆するものでしかありません。1回の診察で肥厚が見つかっても必ずダウン症という図式には全くならないわけです。ただし、この時期の患者さんは非常に神経質になっています。ですから、妊娠初期の超音波検査で後頸部肥厚を認めた時には、それをどのような言い方で患者さんに伝えるか、誤解を招かぬよう慎重に言葉を選びながらお話しするようにしています。

トリプルマーカー検査(クアトロテスト)
トリプルマーカー検査はお母さんの血液中の3つの成分(トリプルマーカー:a-フェトプロテイン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、非抱合型エストリオール)の濃度を測定し、お母さんの年齢を用いて、おなかの中の赤ちゃんに①ダウン症があるかどうか②脳や脊髄などの形成異常(神経管形成異常)があるかどうかを推定する検査です。ダウン症は、生まれた後に、内臓の疾患(消化器や心臓の疾患)や精神発達遅延障害などの症状が認められる症候群です。しかし、その症状の程度には大きな個人差があります。赤ちゃんにダウン症がある場合には、お母さんの血液中のヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が増え、a-フェトプロテイン(AFP)、非抱合型エストリオール(uE3)が減少します。妊娠が進むにつれて3つのマーカーの値は変化しますので、お母さんの妊娠週数と体重で各マーカーの値を補正し、お母さんの年齢における確率を合わせて、おなかの中の赤ちゃんにダウン症があるかどうかを過去の膨大なデータを基に推定することが可能です。ダウン症の推定の結果は「異常があります」「異常がありません」というかたちではなく、確率で報告されます。たとえば、お母さんの年齢が30歳の場合は、「年齢だけで見た場合のダウン症児妊娠の確率は1/704、年齢とトリプルマーカーで算出したダウン症児妊娠の確率は1/3134」のように報告されます。脳や脊髄などに形成異常がある場合には、お母さんの血液中のa-フェトプロテインが増える傾向があります。このため、形成異常については、お母さんの妊娠週数と体重で補正したa-フェトプロテインの値で推定します。形成異常の推定結果は、α-フェトプロテインの上昇の有無で報告されます。たとえば、「AFPの上昇は見られません」のように報告されます。この検査は、確率を出す検査です。確定検査ではありません。トリプルマーカー検査の結果、確率が高いからといって必ずしもおなかの中の赤ちゃんにダウン症があるとは限りません。一方、結果が1/10000という非常に低い確率であっても「絶対に大丈夫」ともいえないわけです。また、ダウン症と脳や脊髄などの形成異常以外の赤ちゃんの状態についても推定することはできません。検査は、妊娠中期(妊娠15~17週頃)にお母さんの血液を5㎡程採って検査します。結果は、およそ1週間で分かります。この検査は、健康保険が適用になりません。全額自己負担(3~5万円)となります。結果は数字をいかに解釈するか、ということになるので、注意が必要です。ただし、出生前診断を受けるかどうかで悩んでいる方にとっては、簡便で比較的安価なので、非常に有用な検査と位置付けることもできます。わたし自身はそうした相談を受けた場合、「とりあえずトリプルマーカー検査だけ受けてみたらどうでしょうか?」とお話しするようにしています。そして、検査の結果を踏まえて確定診断としての羊水検査に進むかどうかを相談することになります。

妊娠とトリプルマーカー検査

羊水検査
羊水検査は、羊水(おなかの中の赤ちゃんを保護している液)を採取し、その中に含まれている赤ちゃんの細胞の染色体を分析する検査です。基本的にすべての染色体を分析するので、ダウン症だけでなく、他の染色体異常も分かります(DNA配列の変異を同定するわけではないので、すべての遺伝性疾患が分かるわけではありません)。羊水中に浮遊する細胞は、基本的にはすべて胎児由来であり、この細胞を培養することにより胎児の核型(染色体の数、形などの構成)を知ることができます。従って羊水検査は、胎児の染色体異常の有無を早期に確認でき、的確な診断や出生後の迅速な処置に役立ちます。羊水検査は妊娠16~19週で行います。超音波で赤ちゃんの位置を確認し、局所麻酔を使用しながら、お母さんのおなかから子宮に向かって細長い針を刺して20成程の羊水を採ります。そして羊水に含まれている胎児由来の細胞を培養し、染色体を調べます。結果は、2~3週間で分かります。羊水を採る際に赤ちゃんを傷つけることはほとんどありませんが、まれに自然流産を起こすことがあり、その確率はおよそ1/300といわれています。たとえば、高齢妊娠や染色体異常がある赤ちゃんを産んだことのあるお母さんが希望した場合やトリプルマーカー検査の結果により、お母さんが希望した場合に受けることができます。なお、羊水検査は特殊な技術を必要とする検査のため、限られた医療機関でのみ実施されています。費用は全額自費になります(某クリニックは約9万円)。羊水検査で赤ちゃんの染色体異常が分かった方は、担当医から十分な説明を受けてください。場合によっては遺伝専門医に相談したり、赤ちゃんの状態や病気について他の専門医から情報を得たりすることも必要になるかもしれません。

絨毛検査
絨毛検査とは、お母さんのおなかに針を刺して、胎児の組織(赤ちゃんの胎盤になる前の絨毛という組織)の一部を採ってきて赤ちゃんの染色体異常の有無を調べる検査です。赤ちゃんの細胞を採取する点は羊水検査と同じですが、検査時期、採取部位などに違いがあります。絨毛検査は妊娠初期の9~11週頃と非常に早い時期に検査を行うことができます。そのため、早く結果を知りたい、という不安を持つ方には良い方法かもしれませんが、羊水検査に比較して流産の危険性が高くなるといわれています。また、誤診の可能性も羊水検査に比べて多いといわれています。そのため、あまり行われていないのが現状です。

出生前診断・着床前診断

着床前診断
着床前診断は、体外受精卵を子宮に戻す前に、受精卵の染色体異常などの遺伝子を調べる検査です。出生前診断は「胎児」の細胞を検査しますが、着床前診断は「受精卵」の状態で着床前に検査します。着床前診断は体外受精を行うことが前提になります。分割が進みつつある受精卵の細胞の1つ(割球と呼びます)をサンプリング(検査などのために見本を抜き出すこと)して、その細胞の染色体を分析するのです。異常があれば、その胚は廃棄し、異常がなければ移植あるいは凍結に用います。着床前診断に関しては、「命の選別」につながるなどとして、日本産科婦人科学会の会告では、められていません。また、実施施設も許認可制をとっており、一部の大学病院などでのみ行われているのが現状です。これらトリプルマーカー検査などの出生前診断は赤ちゃんの状態などについて妊娠中に調べる検査で、検査の結果によっては妊娠中のお母さんが精神的に不安に思う場合もあります。このため、妊娠したお母さんの誰もが必ずしも受ける検査ではありません。検査を受ける前には医師などから十分な説明とカウンセリングを受けることが必要とされています。検査によって分かることが何で、分からないことが何なのか。また、検査を受けることによるメリットーデメリットは何か、についてよく考えていただかなくてはなりません。検査の内容を十分に理解した上でお二人で相談し、決定されることが重要です。赤ちゃんについての疑問などは、遠慮なく担当医に質問してください。

不妊治療の代表的なリスク

卵巣の老化が不妊治療を大きく左右する、40歳以上になると妊娠のリスクは上がるということは前章で勉強しました。では、治療後の妊娠リスクにはどのようなものがあるのか、についても確認してみましょう。

妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群の発症頻度は全妊婦の7~10%と高く、産科領域における代表的疾患の1つです。以前は、妊娠中毒症と呼ばれていた症状で、2005年に日本産科婦人科学会により名称変更され、定義も改変されました。現在、日本産科婦人科学会では妊娠高血圧症候群を「妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧が見られる場合、または高血圧にタンパク尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではない場合」と定義しています。一見難しそうですが、要は「妊娠中の血圧上昇は多彩な病気を誘発する可能性があるので、注意が必要」とでも認識していただければよいでしょう。妊娠高血圧症候群になりやすいタイプは、年齢が高い人、体重が多い人、もともと高血圧の人などです。中でも妊娠高血圧症候群は35歳以上で発症率が高くなり、40歳以上になるとさらに危険度が高まるといわれています。その原因は不明ですが、加齢に伴い、血管が老化するため、年齢とともに発症しやすくなると考えられています。このため某クリニックでは40歳以上の妊婦さんには、こまめな妊婦健診を行っています。具体的には、20代の方が4週に1回の健診であるのに対し、40代の方では2週間に1回来てもらうなどの対応です。そして、血圧の上昇が認められる場合には、胎児発育に影響がないかどうかの検索、早めの降圧剤開始などを行い、場合によっては大学病院へ早めに転院をしていただくケースもあります。

流産
流産とは、妊娠したにもかかわらず、妊娠の早い時期に赤ちゃんが死んでしまうことをいいます。日本産科婦人科学会では、「22週(赤ちゃんがお母さんのおなかの外では生きていけない週数)より前に妊娠が終わること」と定義しています。流産(自然流産)は全妊娠の10~15%と高い確率で起こるとされており、最も多い原因は赤ちゃん自体の染色体異常です。多くは配偶子(精子や卵子)形成過程の異常、あるいは受精時での異常といわれています。特に、高齢になればなるほど流産する率も上がっていきます。加齢により卵子の機能が衰えるため、染色体異常が起こりやすくなると考えられています。あくまでも偶発的なものですが、一定の確率で染色体異常は発生します。現在では残念ながら、染色体異常を予防あるいは治療することはできません。一般に35歳を過ぎる頃から流産率はぐんと高くなり、35~39歳の妊婦が流産する確率は20%、40歳以上になると40%以上の確率で流産するといわれています。

染色体異常(ダウン症など)
ダウン症の発生率と母体年齢は明らかに相関します。過去のデータから、年齢ごとの発生率も数字で明確になってしまっています。これも卵子の老化と密接に関係しています。人は通常、22対(44本)の常染色体と1対(2本)の性染色体の合計46本の染色体を持っています。常染色体には、長い順に1番から22番までの番号がつけられています。ダウン症は、主に卵子や精子の形成される過程や受精した卵が分裂していく過程で本来2本であるはずの21番の染色体が1本多くなるために起こります。ごくまれに、父親もしくは母親のどちらかに21番目の染色体の1本が別の染色体にくっついている「均衡型転座」がある場合には、赤ちゃんがダウン症である可能性が明らかに上昇しますが、それ以外の場合は、発生は偶発的な要因によるものです。ダウン症は現在、早期発見・早期療育によって、他の子どもたちと同じような社会生活を送っている人もたくさんいます。わたしのいとこも、お子さんの一人がダウン症ですが、元気に生活しています。ダウン症は先天的なものなので、予めの予防方法はありません。ダウン症などの子どもたちのことについて、もっと詳しく知りたい方は担当医に申し出て、親の会やボランティア団体を紹介してもらうことで、患者さんやそのご家族の生活について知ることができます。

前置胎盤
前置胎盤とは、胎盤の子宮腔内の付着部位の異常を示す疾患をいいます。胎盤が子宮囗付近を覆うように付着してしまうので、いざ分娩の際に子宮口が開いてくると大出血を来たす場合があります。妊婦健診中の超音波検査で胎盤の位置は必ず明らかになるので、診断がつき次第、厳重に管理しながら帝王切開を選択します。大抵は無事に出産することができますが、やはり産科疾患の中では今でも怖い疾患の1つです。妊娠全体の「前置胎盤」の発生はO・5%程度です。しかし、40歳以上の妊娠では2%程度まで増加するとされています。

常位胎盤早期剥離
文字どおり、胎盤が子宮から剥がれてしまい、大出血を来たすばかりではなく、対処が遅れると、胎児さらに母体にも生命の危険が及ぶ怖い病気です。発生頻度は、全分娩の1%前後といわれています。原因不明の場合も多いのですが、妊娠性高血圧症が引き金になることはよく知られています。つまり高齢妊娠では胎盤剥離の頻度も高くなるといえます。

以上が、代表的なリスクです。では、40歳以上で妊娠をする、ということはどういうことなのでしょうか。昨今、新聞等で高齢出産のリスクに関して過度に強調されて報道される傾向があるような気がします。年齢とともに妊娠のリスクが上がること、これは誰にでも分かりきった話だと思います。リスクが高くなるという数字だけを見れば非常に危険なものというふうに思われるかもしれませんけれども、逆に言えば胎児死亡率が3%でも97%の人は普通に子どもを産むわけです。ですから、もし相対的なリスクが3倍に上がるといっても、もともとのリスクが少なければ絶対値としての発生は少ないというふうにもいえるわけです。数字に振りまわされるべきではありません。わたしは、決して「40歳以上の妊娠は安全だ」と主張しているわけではありません。ですが、リスクが高いということを皆さんは承知で不妊治療にトライしているのです。ですから、そうした方々に「高齢妊娠は危険だから子どもはあきらめろ」というような誤ったメッセージを発するようなことは、あまりに無神経であまりに無責任なのではないかと思っています。最近のメディア報道の仕方を見ていて、個人的にはこうした危惧を抱いています。「リスクはリスクとして冷静に理解して、自分たちが正しいと思う選択をする」という姿勢が肝要かと思います。

注目を集める新型出生前診断

2012年秋、妊婦の血液から高精度で胎児の染色体異常が分かる新型出生前診断がある、と新聞等で大大的に報道されました。妊婦さんの血液の中には、胎盤を経由した胎児由来の細胞がごく微量含まれています。この新型出生前診断は、妊婦の血液から、この胎児細胞を検出し、染色体の分析を行う、というものです。トリプルマーカー同様、採血一つで胎児の異常が高い精度で分かるというもので非常に簡単で画期的な方法といえます。妊娠10週目以降から検査可能です。新型出生前診断は米国の検査会社が開発し、既に米国や欧州、アジアなどで広まっています。採血した妊婦の血液は検査会社に送られ、検査会社が遺伝子を分析し、検査結果は2週間程度で分かります。この検査が日本にも導入され、医療現場に普及すれば、今後、新しい出生前診断として希望者が爆発的に増えることが予想されています。しかし、日本の医療機関でも導入が検討され始めている、この新型出生前診断については生命倫理の観点からさまざまな議論が繰り広げられています。新型出生前診断の報道があってから、当院も患者さんから数え切れないくらい多くの質問、問い合わせがあります。生命倫理に関する問題点など、患者さんからの問い合わせで多かった内容とわたしの回答を以下3つにまとめました。1つめは、新型出生前診断は100%信用できる検査なのか、についてです。この新しい出生前診断は妊婦さんの血液中に含まれる胎児の遺伝子を解析するというもので、ダウン症の場合、99.1%の精度で検出できますが、妊婦の年齢などによって的中率は大きく変わることから確定診断ではないことが強調されています。2つめは、新型出生前診断を行うことによって羊水検査、絨毛検査をしなくてもよくなるのかどうか、についてです。新型の出生前診断は、偽陽性率は低いのですが、非確定検査であるため、確定診断には結局、羊水検査か絨毛検査が必要となります。3つめが、新型出生前診断をすることが倫理的に正しいのかどうか、です。新しい出生前診断の倫理的・社会的課題について、日本産科婦人科学会は2012年に東京都内でシンポジウムを開催し、導入を予定している施設の医療従事者や導入に反対する日本ダウン症協会など当事者団体の関係者を交えて診断の在り方について意見交換を行いました。この意見交換会の内容などを踏まえ、日本産科婦人科学会は、診断の対象となる妊婦の条件などを盛り込んだ指針案を2012年12月にまとめました。指針案は、検査対象を35歳以上の高齢妊婦や超音波検査などで胎児に染色体異常が疑われる妊婦に限ることや、十分なカウンセリングができると認定した登録施設でのみ行うようにすること、などを条件としました。この指針案は学会のホームページで公開され、市民から意見を求め、2013年3月に指針内容を正式決定する予定です。新たな出生前診断は、日本産科婦人科学会の指針が示された後、国立成育医療研究センター(東京・世田谷)、昭和大学病院(同・品川)など一部の施設が臨床研究として実施することを計画しています。倫理的課題は、個人や社会の価値観の問題でもあります。価値観は時代とともに変化します。新聞の論調を見ていると、この「倫理的な観点」という言葉が毎回出てきますが、一義的な解釈はなされるべきではなく、当事者(患者さん)がよく考えて選択すべきことかと思います。この課題には、1つの答えはありません。死生観の定義を指針や法律で統一しよう、というのと同じだからです。結局、社会の倫理的な価値観は相対的なものですから、お二人がどう考えるかが一番大事なことではないでしょうか。なるべく周りの目は気にしないで答えを出してください、とお話をするようにしています。ある大学病院で、ダウン症専門外来を担当する小児科の先生から伺った話です。ダウン症のお子さんを産んだご両親に「この子を産んでよかったと思うか」というアンケート調査をしたところ、99%の親御さんが「よかった」と回答したそうです。その一方、「もし二人目を妊娠したら出生前検査を考えるか」という質問に対しては、ほとんどの親御さんが「羊水検査をする」という回答だったそうです。さすがに「もしもダウン症と判明したら中絶するかどうか」という設問は作らなかったそうですが、羊水検査で胎児に異常が認められた場合、90%が中絶を選ぶというデータがあり、「ダウン症の子を産んでよかった」と思っている方々が、全く同時に次も同じダウン症なら中絶を考えている、という全く矛盾した結果だったわけです。わたしは、これこそが当事者の本音だと思うのです。生命を授かるというのは、喜びも悲しみもすべて享受することです。報道だけで判断はせずに、お一人おひとりがしっかりと考えて判断していただければ、と切に願います。出生前診断は厚生労働省の方針もあり、患者さんが希望された時に限って十分な説明をした上で行うこと、となっており、病院側からは検査の施行を積極的に勧めないというのが主流です。某クリニックでも患者さんから質問があるまでは、積極的に勧めるようなことはしないようにしています。ただ、当院のデータで調べてみると、40歳以上でかつ不妊治療をされて妊娠された患者さんの約60%がトリプルマーカーのみ、あるいはトリプルマーカーと羊水検査の両方の出生前検査を行っています。実際、羊水検査を希望して、検査でダウン症などの染色体異常が見つかったお母さんは何人もいます。そうした時には、必ず旦那さんも呼んで、その後のことを話し合います。場合によっては、1時間近い時間をかけて話すこともあります。メディカルパーク湘南では、患者さんから出生前診断の質問を受けた時には、どんな検査があって、それで何か分かるか、検査の目的、限界、その後の対応の選択肢などについて、具体的かつ中立的に提示するようにしています。出生前診断を受けるか受けないかについて迷われている方には、「とりあえず」というかたちでトリプルマーカー検査をまず試してみてはいかがでしょうか、というふうにお勧めします。一方、30代前半でも、「どんなに確率が低くても確定検査でなければ意味がない」とのことで、トリプルマーカーは飛ばして最初から羊水検査を希望される方もいます。人の価値観はさまざまですが、「二人で勝手に判断してください」では患者さんはどうすればいいのか分からないと思います。夫婦で相談しながら、医師にも相談して、納得した方向性を模索していくとよいでしょう。

妊娠したい、という方のために

もう1つの選択肢1卵子提供
今、「子どもを持ちたい」と思って長年不妊治療を頑張っている方はたくさんいらっしゃいます。しかし、不妊治療は頑張っても必ずしも良い結果が出るものではありません。現在の医療では限界があることはこれまで再三述べてきたとおりです。ここでは、不妊治療を頑張り続けた後の実子以外の選択肢をいくつかご紹介します。1つが、「卵子提供」という選択肢です。年齢とともに当然、わたしたちの体は老化します。しかし、子宮の老化は卵巣が老化するよりも遅いので、ここに第3者から提供された卵子を用いて体外受精を行い、受精した胚を自分の子宮に戻す、ということが理論上可能になります。この場合、妊娠及び出産するのは自分、また夫の精子を用いるので、遺伝上のつながりは男性のみで、女性側にはない、ということになります。卵子提供を用いた体外受精に関しては、国ごとに規制が違っています。イタリア、オーストリアなどカトリック色の強い国では法律で卵子提供を禁止しています。一方、英・仏、韓国、台湾、シンガポールなどのアジア諸国では法律の下に一定の条件のもとで認めています。アメリカには法律はなく、卵子提供はビジネスとして広く浸透しています。2005年のデータを見ると、年間1万4646件の卵子提供を用いた体外受精が行われており、これは全治療周期の10%を超えている計算です。日本では、2012年現在、卵子提供についての法律はありません。しかし、2004年に日本産科婦人科学会が会告を出し、卵子提供を禁止しており、生殖専門医各々が会告を自主的に遵守するかたちになっています。自分の卵子を使用しての不妊治療に見切りをつけ、海外での卵子提供による治療を望むカップルが多数存在すること、これは現実です。2012年4月29日に、読売新聞で「海外卵子提供で出生130人」という記事が報道されました。わたしの実感では、おそらく実数はもっともっと多いのではないのかと思います。日本生殖医学会は、米国などに渡航して治療を受けた夫婦の数は、2009年までに少なくとも1000例程度あると推測される、と報告しています。最近では、費用の面から、米国ではなくタイで卵子提供を行う方が急増している、というニュースもあります。インターネットで調べてみると、海外には不妊治療を紹介するエージェントの中に、卵子提供者を仲介するエージェントも存在しているようです。読売新聞の記事には、卵子提供を受ける場合、一回の費用はタイで100~300万円程度、米国で250~600万円程度と掲載されていました。しかし、現在の日本では日本産科婦人科学会の会告で産婦人科医が卵子提供の斡旋をすることも禁止されています。こうした問題に関する賛否は、ここでは取りあげません。ただし、相当な費用と負担があっても海外で卵子提供を受けたい、と思う人が大勢いて、それはおそらく今後も増えていくことでしょう。倫理観、価値観は人それぞれ違っても仕方がないことです。ましてや、国ごとに大きく違ってくるのは当然です。ただ、普遍的なアドバイスとして言えることがあるとしたら、親となるカップルには、生まれてくる子どもに対して自覚と責任が必要だ、ということだと思います。わたし自身、これまで治療を断念して海外に渡航した患者さんを何名か経験しています。そのうちの何名かは実際に妊娠されています。そして実際に行動に移すかどうかは別として、「卵子提供をほんの少し考えていますが、先生はどう思いますか?」という相談を受けることはもっともっと多いです。治療に追い詰められている方の気持ちは痛いほど分かります。そうした方々にとって、こうした治療を頭ごなしに否定や批判をしていればよい次元の話ではないかと思います。一方で、逆に米国在住の日本人の方で、わざわざ帰国して日本での治療再開を希望する方をたまに経験します。帰国の理由として、「これまで2回ほど体外受精を行ったが、失敗した。担当のお医者さんからは「あなたは自分の卵子での妊娠は不可能だから、次は卵子提供での体外受精にしましょう」と言われた」という話をされるのです。そうした患者さんのうち、すでに2名が某クリニックで、自分の卵子を用いた不妊治療で普通に妊娠しています。そのまま治療を続けていたら、どうなっていたのでしょう? 驚きます。同じ妊娠でも遺伝的なつながりがあるかないか、これは大きな違いです。これこそ文化の違いと言えるかもしれません。卵子提供という選択肢がある国とない国では、患者さんの卵をどれだけ大事に扱うか、という点において、不妊治療自体のきめ細かさが変わってくるような気がするように思うこともあります。

もう1つの選択肢2養子縁組
不妊のカップルが子どもを育てるための方法の1つとして、「養子縁組」という選択肢もあります。養子縁組とは、「親子関係にない者が養子縁組という行為によって法律上の親子関係を新たに創り出すという制度」(法務局)のことです。欧米では実親がいない子どもたちの養育を目的とする養子縁組は不妊症のカップルにかかわらず、ごく普通に行われています。一方で、血縁を重視する傾向にある日本社会では養子縁組が一般化していないのが現状です。現在、日本では「特別養子制度」と「普通養子制度」という2つの養子制度が民法で定められています。従来からの制度である普通養子制度は、養子と実親との法律的な親子関係は保ち続けられます。これに対し、特別養子制度は養子と実親との親子関係が終了され、養親が養子を実子同様に養育できるのが特徴です。実際、養子を希望する場合は公立の児童相談所か、NPO(民間非営利組織)や社団法人のような民間団体から斡旋してもらうかたちになります。養親に求める諸条件は、児童相談所の場合、各自治体で異なりますので詳しくは各自治体にお問い合わせください。民間団体については、養親候補者の収入、年齢、住居環境、家族関係など児童相談所より細かい規定があるところもあります。さらに、子どもを望みながら子どものない家庭の選択肢の1つとして「里親制度」という制度もあります。里親とは家庭生活に恵まれない子どもたちを家庭で育てていただく方のことで、法律上の親子関係はありません。一方、養子縁組制度は法的に恒久的な親子関係を取り結ぶ制度です。里親になるために特別な資格は必要ありませんが①心身ともに健全であること②子どもの養育についての理解や熱意と愛情を持っていること③経済的に困窮していないこと④子どもの養育に関し、虐待などの問題がないことなどについて審査があります。里親を希望される方は、まずはお住まいの地域を管轄する児童相談所へご相談ください。近年は、不妊治療の末に養子制度を希望するカップルも増えています。しかし、実際は養子制度を希望しても多くの民間団体では年齢(ご夫婦ともに年齢は39歳以下、など)、収入(年収が300万円以上あること、など)というさまざまな条件があり、実現が難しいという状況となっています。個人的には、40歳以降で不妊治療を受ける患者さんがこれだけ多くなっている中で養子縁組制度がもう少し普及すればいいのに、という気持ちを持っています。某クリニックは不妊治療メインの病院です。しかし、その当院ですら中絶を希望される患者さんは時として受診されます。そのような患者さんの治療にあたるにつけ、こういう望まれない妊娠による赤ちゃんが、本当に赤ちゃんがほしい患者さんの下で育てられたら・・・という思いを持ってしまいます。いろいろな事情から実親のいない子どもたちを育てるということは大きな社会貢献になるはずです。家庭を必要とする子どもを愛情と責任をもって育てられるのであれば、遺伝的なつながりというのは絶対的な必須条件ではないといえるのではないでしょうか。20年程前に、リチャードードーキンスという生物学者が書いた「利己的な遺伝子」という本が一世を風靡しました。端的に言うなら「すべての生物は遺伝子の乗り物である。その行動は遺伝子が生き残る目的によってのみ支配されている。働きアリが奴隷のごとくひたすら働いて女王アリに尽くすのは、自分の兄弟を生き残らせる方が遺伝的に有利だからだ」という説です。人間は高等な生物です。遺伝子の言いなりにはならないはずです。遺伝的なつながりがなくても盲目的な愛情を注ぐことができるものです。

妊娠、やるだけのことをやってみよう

40歳から不妊治療を始める方へ
現代の日本は晩婚化が進んでいますが、結婚に対する意識の変化や職業・労働形態の多様化、女性の社会進出の増加などに伴い、晩婚化はこれからも進行していくと考えられています。某クリニックにも不妊治療を希望されて来院する40歳以上の女性患者さんが増加してきています。患者さんの6~7割は結婚して5~10年妊娠に恵まれなかったから来院するわけではなくて、「半年前に結婚したけれども、40歳以上ではあまり時間が残されていないことが分かっているから、すぐに不妊治療を始めようと思って来ました」とか、場合によっては「来月結婚するから、すぐに治療を始めたい」などという方がどんどん多くなってきている実感があります。おそらく病院に行くことができず、どうしようと悩まれている不妊症予備軍はもっと多いと考えられます。そのような方に、もしメッセージを差し上げることができるのなら「躊躇せずに、ぜひ一歩を踏み出してほしい」というアドバイスです。40歳以上になると妊娠の成功率は低く、妊娠する可能性が少ないという数字はありますが、その中でも妊娠する方はたくさんいらっしゃるわけです。不妊治療を行わないで過ごすということは時間をいたずらにロスすることになってしまいますから、一歩を踏み出す勇気を持つといろいろなものが見えてくると思います。不妊治療は、通院を始めて後悔することがあればいつでもすぐにやめられる治療です。これから不妊治療をするかしないかで迷っていらっしゃる患者さんは、迷っているのであれば産婦人科で健康診断を受けるくらいの軽い気持ちで不妊治療病院の門をたたいてみるのも悪いことではないと思います。

大事なのは「結果」より「過程」
「病院に行った方がよいことは分かっているのだけども、結果が出なかった時のことを考えてしまってなかなか腰を上げることができない」「このまま治療を続けて妊娠できなかったら、すべてが無駄になってしまう」というお話をよく伺います。不妊治療をする皆さんのゴールは「妊娠」、そして「出産」です。分かり切ったことです。わたし自身も日頃患者さんに「不妊治療は結果がすべての世界です。どんなに優しい言葉をかけても、時間と手間を尽くしても、その患者さんを妊娠させられなければ、信頼に応えたことにはならない、言わばわたしたちは「負け」なのです」とお伝えしています。でも本当にそれだけなのでしょうか? たとえば、妊娠をしても流産をしてしまったら、その方の不妊治療は意味がなかったものになるのでしょうか? 目標が達成できなければ、二人が歩んだ不妊治療のプロセスは、無意味なものになるのでしょうか。テレビで過疎地の高校の野球部を追ったドキュメントを観たことがあります。新入部員が入ってギリギリ9名。設備もかわいそうなくらい乏しい状況で、それでも部員たちは3年間ただひたすら野球に没頭します。しかし、甲子園の予選では、強豪にコールド負けを喫し、球児たちの夏が終わります。試合後彼らは号泣しますが、一様に「この3年間は生涯の財産になりました」というようなことを話します。わたしは、不妊治療と高校球児に共通点を認めるのです。たとえ1回戦で敗退してしまっても、それまでの血のにじむような努力の日々の価値は全く不変なはずです。それは彼らにとって結果よりも過程の方が圧倒的な重みを持っているからです。不妊治療も一緒なのではないか、と。たとえ妊娠できなかったとしても、お二人が歩まれた苦労、悲しみ、喜びはすべてお二人の人生にとって大変大きな宝、財産になるはずだと思うのです。わたしたち医師の役割は、お二人の人生の宝物となるような治療のプロセスを提供することだというふうに考えています。某クリニックには子宮がんの検診や更年期症状のために50代、60代の患者さんもたくさん訪れます。その方々から「わたしも昔、相当不妊治療をしてたのだけど、結局ダメでねえ……。懐かしいねえ……」などの話をよく聞きます。そういう話を伺うと、なぜだか少しホッとするものです。

数字に振りまわされるのはやめよう
40歳以上になると、不妊治療の成功率が激減するというのは間違いない事実です。ただ、妊娠する可能性が1%でも妊娠する人は必ず存在するし、可能性が90%でも妊娠しない方はいらっしゃるわけです。宝くじの例を出しました。1億円が当たる確率というのは天文学的に低い確率です。宝くじを買って楽しむ、ということ自体非現実的な行為ということになります。でも、皆さんは宝くじを買うわけです。わたしも毎回買います。ささやかな楽しみです。「不妊治療なんて当たるも八卦、当たらぬも八卦、宝くじみたいなものですよ」なんてことを言っているわけではありません。確率だけで支配されるなら、医師は不要です。しかし、結果の期待値だけでは議論できないということをよく理解してほしいのです。数字だけを見て、「どうも妊娠できる確率は少なさそうだからやめておきます」と考えるのであればちょっともったいない気がするのです。某クリニックには、一助歳以上の方で治療をしている方がたくさんいます。皆さん、妊娠率が高くないことは百も承知で不妊治療を続けていらっしやるのです。そうした方が共通しておっしやる言葉があります。「確率が低いことは分かっているのだけれども、後悔したくないのです。もしも、後悔することがあったとしても、やらないで後で後悔するよりはやって後悔する方が何倍もよい」数字だけを見て妊娠の可能性が少ないからと妊娠を、子どもをあきらめようとしている方がいるのであれば、その一歩を踏み出すことは人生の選択において間違っていないと思います。また、「不妊治療は、1回始めたら終わりがないから怖い」と思っている方も大勢いらっしゃいます。いつでもやめられます。片足を突っ込んだらもう戻れなくなる、なんてことは全くありません。躊躇している方がいらっしゃったら一歩を踏み出して病院の門をたたいてみましょう。

不妊治療を楽しもう

不妊治療の目的は、妊娠することだけではないと考えています。治療によって夫婦の絆をより深めること、これこそが真の目的なのだと思います。そのことに理解を示していくことによって、社会から受けるさまざまな圧迫感や閉塞感などの精神的な悩み、不安を少し解放してあげることができるのではないでしょうか。不妊治療は、苦しんでまでするものではありません。楽しくなければ不妊治療ではない、というのがわたしのモットーです。不妊治療は、お金も時間もそれから精神的な負担もばかになりません。楽しまなければ損です。せっかくの1度きりの人生ですから、不妊治療ライフも楽しんでいただけたらと思っています。

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